冒頭の言葉は、僕がPT養成校時代の時に、とある先生が授業中言ってたことで。
当時は「えっマジで」って思ったくらいでしたが、意外とジワるというか、この言葉が長年頭の片隅から離れなくて。
PTになり、スポーツで独立した今でも、この言葉が不思議と残ってて、ずっと「これ、どうなんやろ」とたまに自問自答しました。
多分、PTで現場にで始めた方とか、スポーツを仕事としてやってる方は、この言葉は割と刺さるものがあるんじゃないかなと思うんですよね。
「PT入ってから勝てなくなったよね」って思われてないかな〜とか、PTより他の職種の方がぶっちゃけ現場で活躍してるよな〜とか。
他の競技や現場からもちょいちょい「PTが入ったらあかんわ」って聞こえてきますし、昔はよく自問自答しましたし、確かにそれってあるよね〜って今でも共感してる自分もいますし。
もちろん僕も、自分がチームや選手個人と関わってる時に戦績が落ちると、その度にこの言葉がよぎったりしてました。
で、最近海外が仕事のメインとなり、いろんな背景のトレーナーさんと関わる中で、この「PTが現場入ったら勝てなくなる」問題の理由が自分なりに腑に落ちてきたので、僕なりの見解をまとめてみました。
PTはスポーツの現場に出ても「医療人」になっちゃう人が多い
理学療法士が、養成校や医療機関での日々の中で培ってくるマインドは、だいたい以下の感じかと。
- 患者さんの声を傾聴する
- 患者さんに寄り添う
- 無理させない
- 優しく接する
- 根拠に基づいて
- 感覚を大事に
- もともと持っている能力を引き出す
- 代償動作を極力なくす
これらはこれらで、めちゃくちゃ大事な感性だと思います。
医療機関でリハビリの仕事をする場合、どれも欠かせないマインドでしょう。
で、これらを日々心身に叩き込んだPTは、スポーツ現場に出てもやはり同じマインドで仕事をしがちです。
- 「痛がってるのに無理しちゃダメ」
- 代償動作が怪我の元になるから、できるだけ避けましょう
- 選手の声に耳を傾けよう
- 選手の立場になって言動する
- ポテンシャルとして持っていて、だけど使えてない部分にフォーカスする
- リスク管理を徹底
などなど。
これはこれでいい部分だと思いますし、僕自身もPTなので、結構こっち寄りの仕事の仕方をしてます。
背景が医療従事者ですし、そのアドバンテージを現場で活かすのは当然でしょうから。
ただ、「病院でのスポーツリハ」と「スポーツ現場のトレーナー活動」が似て非なるものであるように、スポーツ現場はスポーツ現場であり、医療現場ではないんですよね。
話変わって、最近海外のトレーナーと話すことが多いのですが、彼らが僕の仕事を見ててよく、
different(異なる)
って単語を使うんですよね。
これは、「自分たちと業種や背景の知識が違うから、やり方も違うんだね」という意味です。
もちろん、彼らは決してマイナスの意味で言ってるのではなく、むしろ自分たちにはない視点のようで目をキラキラさせて見てくれることが多かったです。
ただ、スポーツ現場の場合、最終的な目標はパフォーマンスアップ→試合での成績になるので、PTがどんな役割の立場であっても、医療的なマインドとは別に、競技力向上のためのマインドを学ぶべきだと思っています。
では、いわゆる「フィジカルコーチ」の考え方って?
彼らフィジカルコーチ(競技力向上を前提とする職種)の仕事っぷりを見てて、とても感心したというか、「あ、これ自分にはなかった所やな」と感じる部分が多々ありました。
これが冒頭の「PTが現場に入ると勝てなくなる」「どういうことか腑に落ちた」部分だったのですが、こんな感じです↓
『理学療法士出身のトレーナーが入ると、チームが勝てなくなる』としばしば聞き、僕も同感であり、最近それが腑に落ちてきたので表にしてみた。
いわゆる「フィジカルコーチ」と僕らPTは、考え方の土台がこんな感じで違う。現場出るPTはフィジコのこうした所を大いに学び、実践すべし。 pic.twitter.com/o2euDfejEy
— 西川 匠 (@physio_tennis) 2019年8月8日
↑このツイートは割と反響ありました。
フィジカルコーチたちと、PTそれぞれの傾向を表でまとめてみる と…
こんな感じになります。
言わずもがな、どちらか極端なケースにはならないでしょうし、考え方に優劣はありません。
求められることによって必要なマインドも変わりますし、どちらの視点も持って仕事することが大切です。
しかし、例えばPTがよく考える、「体の使い方を改善しよう」が上手くいったとして、本当に今より上のレベル(具体的には、本人が臨む競技レベル)で戦えると確信がありますか?
これが「yes」であるならば、それを優先して取り組むべきでしょう。が、もし確信がないまま、PTが持つロジックだけをスポーツ現場に当てはめてトライした結果、体は上手く使えるようになったけど、チームは勝てなくなった、という未来が待っています。
そして、現場でやっているPTならば、一度はこの失敗を経験したことがあるはずです。
僕もあるので、冒頭の言葉を自分ごとに感じますし、自問自答してました。
で、もしあなたも同じことを感じているなら、ぜひ彼らフィジカルコーチの考え方を取り入れることをオススメします。
彼らは常に、
- 現場の雰囲気や空気作りに神経を使っている
- アスリートとしてのキャパを広げるようにトレーニングする
- 優しいだけではなく檄をとばす
- 選手に「やってやるぞ」と火を付けさせるような接し方をする
という所に注力してました。
これらこそが「競技力向上のために優先している仕事の仕方」であり、同時に医療機関だけで育った僕らPTにない視点、学ぶべき部分だと思っています。
特に、試合帯同中などはこれが顕著ですね。
数日前、今回のウィンブルドンに選手の帯同で行ってる先輩トレーナーと電話してて、トレーナーの舞台裏を聞いてました。
言える範囲で言うと、
・どのトレーナーも「チームの空気作り」がうまい
・やってることは皆同じ
・アップの場所狭くて取り合い必至
・メニューは流行り廃り激しいとのこと。 pic.twitter.com/76FzwqzbRQ
— 西川 匠 (@physio_tennis) 2019年7月10日
彼らから学びつつ、自分たちのアイデンティティも大切にしよう
ここまでPTを卑下するような(?)文章になってしまったかもですが、決してそうではなく、むしろPTの方々には自分たちのアイデンティティをスポーツ現場でも大事にしてほしいな、と思っています。
実際、国内・海外ともに様々な現場で活動していて、PTの繊細さやロジカルシンキング、動作を見る目などは一目置かれますし、競技力向上面にもメディカル面でも大いに役立つものです。
↑海外の様々な場面では、日本人のPT的観点は重宝される。
なので、自分たちのアイデンティティを忘れることなく、フィジカルコーチたちの価値観も取り入れつつできれば、スポーツ現場で素晴らしい仕事ができるはずです。
ここまでできるPTが、もっと増えてくれればいいなと思います。
そうすれば、「PTが現場入ったらチームは勝てなくなる」なんて言われることはなくなるでしょうからね。
追伸:スポーツを仕事にしたい理学療法士の方へ
- 自身の現状(勤務状況やスポーツとの関わり)、今後の目標を話していただけること
- 配布動画を全て見て、その後感想などの連絡をしていただけること
- スポーツ分野を仕事にしたいという強い気持ちがあること
追伸2:「僕がスポーツで独立するまでにやってきたこと全て」をテキスト化しました!
5年前、僕がスポーツで独立するまでに、取り組んできた全てのことをまとめました。
巷には出回っていないリアルな実話なので、これからスポーツを仕事にしたい(独立したい)人にとっては役に立つと自負しています!
23歳PT スポーツで独立するまでにやってきたことすべてhttps://t.co/nS2FmcwkBc
— 西川 匠 (@physio_tennis) 2019年3月7日
このコンテンツは、理学療法士で当時23歳だった僕が、スポーツで独立するまでにやってきた全てのことを書いたテキストです。
総数20000文字、かなりのボリュームですが、巷には出回っていないリアルな実話なので、これからスポーツを仕事にしたい(独立したい)人にとっては役に立つと自負しています。