シリーズ6話目のテーマは、

成長期に原因不明の不調が長く続き失速、その後『再浮上したor脱落してしまった』事例

 
クラムジーという言葉をご存知ですか?
(前記事で紹介しましたが)
 
 
これは個人的には超超超大問題で、
これを専門分野として研究したろかと思うくらい
深刻な問題です。
 
 
クラムジーを英語で直訳すると
「不器用な」とか「鈍臭い」みたいな意味に
なりますが、今まで順調だった選手が
ある日を境に突然、「不器用」で「鈍臭く」なってしまう現象です。
 
んなことあるんかいと思うかもしれませんが、
本当にあります。
 
 
深刻なのは、重症な例だと
今までロースコアで勝っていた相手にも
勝てなくなってしまうぐらい動きが鈍重に、
そしていわゆる「球感」が落ちてしまう。
 
その不調を改善しようと頑張るほど
調子が崩れてしまう。
無論、新しい技術の習得なんて全くできない。
 
こんな症状です。
 
 
 
先に結論を言うことになりますが、クラムジーは
・現時点で特効薬や予防策が確立されていない
・しかも、調子が悪い時期が最長2年ぐらい続く
 
僕がこれを問題だと感じてる理由です。
 
 
そしてこれを解決するには、クラムジーについて
現状わかっていることを理解して、
できる対策と心構えをしておくことです。
 
 
以下は、クラムジーについて分かっている現状と
できる限りの対策についてです。
(毎度繰り返しますが、
脅かしてるわけではありません。
こういった不調が原因で
競技を諦めてしまう選手を一人でも
少なくするための記事であることをご理解ください)
 

その①:クラムジーは世界中で問題になっているが、研究データがほとんどない 

スクリーンショット 2017-12-07 15.20.37.png
 
クラムジーの症状は、世界各国あらゆる競技の
ジュニアに起きているようです。
そして「クラムジー」という言葉自体も
世界共通です。
 
 
しかし、世界中を探しても
学術的なデータはほとんどなく、
研究がされていないのが現状のようです。
(そもそも、クラムジーを表す学術用語も存在せず、
研究しようとしている人がいるのかどうかも
怪しいものです)
数少ない情報の中でわかっているのは、
急な体の発育(PHV時期の変化)に、
指令を送る脳や感覚器がついていけてない状態
のようです。
 
 
シンプルに例を挙げると、
ラケットを持つとき、
いつもグリップを握っている位置よりも
少し長く握って打ってみてください。
何か違和感があると思います。
 
 
グリップが長くなった分、ラケットは重いので
いつもの感覚で打つと振り遅れてしまうように
感じますよね?
指令を送る脳や感覚器が、いつもと違う
ラケットの重さについていけてない状態です。
これに似たような状態だと思ってください
PHVで手足が伸び、いままでよりも重くなった
手足や体重に、指令を送る脳や感覚器が
ついていけてないんです
 
 
そして、ラケットの例で例えると
最初は違和感があっても、何日も何ヶ月も
その長さで握って打っていると、
違和感がなくなっていきますよね。
 
これが、今の重さに脳や感覚器が
追いついていきた状態で、
クラムジーが治まるのも、このような状態と
考えられています。
 
 
この感覚の乖離と、それが追いつくまでに
半年〜2年くらいかかることが多いのですが、
半年と2年ってだいぶ差がありますよね。。
 
しかも、症状も軽い例と重度な例が存在します
 
 
2年も重い症状で競技を続けていると、
ほとんどの選手は心が折れてしまうでしょう。
その間、今まで簡単に勝てていた相手に勝てなくなり、
かつてのライバルはどんどん先に進んでいくのですから。
 
 
ですが、症状の軽い重いは
いくつかの共通点があるようです。
それが下の「その2」です。
   

その②:細身で長身の選手、手足が長い選手に多い

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以下は、医科学的な根拠はありません
僕や一緒に仕事をしている人たちが
現場レベルで体感していることです。
・PHVで急激に身長が伸びて、同世代の平均身長よりも長身になった選手
・同身長の選手と比べて、手足が長い選手
・PHVを迎えるまでに体脂肪が少なく細身だった選手
下の写真を見てください↓
IMG_8625.jpg
これは、ある複数の選手の身長の変化を
グラフ化したものです。
(守秘義務があるので、実際の症例を複数ミックス
して、架空のケースとしてグラフ化しています)
 
青印の選手は、急激にPHVを迎えて身長が伸びていますね。
 
 
こうした選手は、
比較的症状が重く出るケースが多く、
クラムジーが続く期間も1年〜1年半と長めです
 
一方で、
 
・PHVで急激に伸びるのではなく、
常に一定して身長が伸び続けている選手
・体脂肪が多く、いわゆる「ふくよか」な体型の選手
・ずっと小柄な選手
 
は、比較的症状が軽く、期間も半年〜一年と
短い傾向にあります。
(症状が全くないケースも
しばしば見られます)
 
 
私見ですが、身長や体重の「ハードウェア」の
変化が急激なほど、感覚との乖離が生まれて
クラムジーの症状が出やすくなるのではないか、と
個人的に考えています。
 
 
 
 
次に、以下は現時点で考えられている
クラムジーの予防と対策です。
 
 

対策、予防①:PHVがやってくるまでに、様々な運動体験をしておくこと

 
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この予防は、PHVが来る以前にできることです。
正直、クラムジーになってからの対策よりも
なる前の「予防」の方が大切と感じます。
これは旧東ドイツで「スポーツ運動学」を
研究したマイネル博士の提唱ですが、
似通ったたくさんの運動経験をすることで
神経系の運動学習が進みやすくなる
という考えに基づいています。
 
例えば「走る」という動作一つにしても、
・かけっこ
・雑巾掛け…足首で蹴る
・自転車…ピッチ(回転数)を上げる
 
など、走る動作に必要な要素がいくつかあり、
その要素を満たす運動をたくさんしていると
いざ走る練習をした時に上達が早くなる、
というものです。
 
そしてマイネル曰く、クラムジーの時期は
指令を送る脳や神経細胞が変化した体に
追いつこうとするために、
過去に行った運動経験をヒントにしようとする
とのことです。
 
 
クラムジーで走るのが遅くなった選手は、
無意識に今まで行った「雑巾掛け」や「自転車」
などの体の使い方を思い出して
遅れを取り戻そうとするのです。
 
重要なのは、このときその選手に
「かけっこ」や「自転車」をやったことがないと、
ヒントにする感覚の記憶がないため
症状が重く、そして長くなってしまう傾向にあるそうです
 
 
 
ちょっと専門的で難しかったかもしれません。
結論を言うと、幼い頃にテニスに似た運動経験を
たくさんしておくことが、予防になるということです。
 
※ちなみに僕が思う似た要素の運動は、
・卓球(打点とのコンタクト、遠近感など)
・バドミントン(オーバーヘッド動作)
・陸上全般(スピード系)
・クラシックバレエ(内的な身体感覚)
などは良いかなと感じます。
 
 
 

対策、予防②:クラムジーの時期は、できるだけシンプルで体を大きく使う運動をすること

 
スクリーンショット 2017-12-07 15.32.55.png
 
例えば、スキップや走り幅跳びなどで
大きく手足を振って行うことが大切と考えられています。
クラムジーの時期になると、多くの選手は
体を大きく動かすほど違和感が強く出るため
無意識に動きを小さくしてしまう傾向があります。
 
そして、
必要以上に小さな動きを続けてしまうと
今度は体や脳がそれを覚えてしまい、
クラムジーが治ってからも動きを取り戻せなくなるからです。
 
 
これはオンコートの練習にも言えることで、
あるコーチは手出しでいつもより大きく体を使い
一球一球感覚を確かめるシンプルな練習を
していました。
 
 
基本的に、クラムジーの時期は今までやってきた
内容をできるだけシンプルに反復して、
感覚を確かめる程度にとどめていく方が
良いでしょう。
 
 

対策、予防③:体重を増やしすぎないこと

 
IMG_41631.jpg
 
当然といえば当然ですが、必要以上の体重増加は
動きが余計鈍くなってしまいます。
体を動かす「エンジン」の性能は
すぐには上がらないですから、「車体」は
できるだけ重くせず、今までを維持することが大切です。
※ただ、女性の場合はホルモンの増加によって
体脂肪が増えていき、避けられない体重増加もあります。
そんな中無理なダイエットとかは
危険なのですが、
これについては、次回詳しく書いていきます。
 
 
 
 
ここまでが、クラムジーの予防、対策として
現時点でわかっていることです。
 
最初に結論を言ったように、クラムジーには
特効薬はありません。
できるだけ症状を軽く、そして短くするために
これらの対策をすることが重要ですが、
反対に絶対にやってはいけないこともあります。
 
それが以下の内容です。
 

クラムジーの時期に絶対やってはいけないこと

  1. トレーニングや練習で、無理な負荷をかける
  2. 新しいことを覚える練習やトレーニングばかりする
  3. 癖や違和感をすぐに直そうとする
 
これらはいずれも、脳や神経系を混乱させてしまいます
 
クラムジーは最初に述べた通り、
「体の変化に、脳や神経系、感覚器がついていけてない」状態です。
このとき脳は、体の変化についていこうと必死です。
今までやってきた運動経験
神経系のネットワーク)を必死に思い出して、
感覚を取り戻そうとしています。
 
 
そんな時に、新しいことを覚えようとしたり
無理に負荷をかけたりすると、
今までの運動経験をより混乱させてしまうことに
繋がります。
 
 
(これらは医学的根拠はなく
あくまで経験に基づく臨床推論ですが、
現場でも上手くいった試しがありません)
 
 
 
あくまでシンプルな運動や練習、
これまで行ってきた復習に徹するのがベターだと
現時点では考えられています。
 
 
 
 
 
 
……クラムジーについては、まだ未知数が多く
今後研究によって明らかになっていくかどうかも
正直わかりません。
 
確実に言えるのは、
クラムジーで悩んでいる選手はかなり多く、
そのほとんどが「クラムジー」ということを
知らずに悩んでいる
という現状、そして
 
クラムジーの症状は、いつか必ず終わりがくる
 
ということです。
 
 
今日の記事も根本的な解決ではないですが、
クラムジーを抜け出した後に再浮上する選手は
たくさんいます。
3年越し、5年越しに復活して
プロとして活躍している選手も実際にいます。
希望を捨てずに、頑張ってほしいものです。
次回は、このクラムジーの時期に重なって起こる
女子選手の内分泌(ホルモン)系のお話です。
 
クラムジーだけで複雑すぎるのに
まだあるんかい!と思いますが、この時期は
ホント大変なんです。
不調の選手は、何か改善のヒントが
見つかるかもしれないので、参考にしてください。
 
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