スポーツ現場で活動していると、「この所見、研究されてるものってあったかな?」と感じることがあると思います。

西川の場合、サーチした内容が最終的に英文の一次情報であることも多いのですが(引用文献を辿れば大抵は英文になる)、今回は西川がスポーツ現場で役に立った論文を紹介します。

(〇〇についての論文情報がほしい!という意見がありましたら、公式LINEなどでお伝えください。サーチを補償できる訳ではありませんが、ニーズが大きい内容であればこの記事に追記しようと思います)

また、各論文のポイントや要点をまとめていますが、応用される際は、実際にみなさんにも内容をご一読ください。一次情報を自分で取りに行くことが大切ですからね。

それでは、どうぞ!

①アキレス腱障害の治療と予防

アキレス腱障害に関する治療と予防の要点をまとめた論文です。

詳しく書かれていますが、その分煩雑なので要点を掴みにくいかもしれません。ポイントを解説すると以下になります。

  • アキレス腱障害は腱の痛みと腫脹、活動時の痛みにより診断される
  • アキレス腱への機械的負荷を与えるエクササイズがエビデンスレベルの高い治療である
  • 活動の変更と腱への負荷を徐々に高めるエクササイズに焦点を当てるべきである
  • 症状がなくなることは機能や腱の構造が完全に回復することと一致しない(痛みが取れても機能がもとにもどっているわけではなく、痛みがとれたからすぐに復帰すると再発しやすい)
  • 一番良い予防方法は早期の軽微な症状を無視せずに、負荷を調整すること

強調したい点は、

  1. アキレス腱障害の原因として過負荷や回復が不十分なこと、とくにトレーニング負荷の急な変化が挙げられる。
  2. 痛みが取れても機能がもとにもどっているわけではなく、痛みがとれたからといってすぐに復帰すると再発しやすい。
  3. 初期の違和感やスポーツはできるけど痛いという状態を無視せずに腱への負荷量や回復について見直すことが重要。

あたりでしょうか。

論文はこちらから。

Current Clinical Concepts: Conservative Management of Achilles Tendinopathy

②肩のスポーツ障害のリスクファクター

肩のスポーツ障害におけるリスクファクターを調べたシステマティックレビューです。

過去、何度かツイートにも上げましたが、現場では「肩内外旋筋力のアンバランス」がよくみられ、特に経験則ですが内旋筋力<外旋筋力になっている選手ほど、肩障害が少ない傾向にあると感じています。

現場レベルでは「まあ、そうだろうな」と感じる内容が多いですが、こうして論文として出されているのは少ないので、肩障害に関わる方は見てて損はないかと思います。

Risk Factors of Overuse Shoulder Injuries in Overhead Athletes: A Systematic Review

③健康を維持するための睡眠習慣のヒント

睡眠衛生(健康を維持するための睡眠習慣)について40本の研究をまとめたシステマティックレビューです。

18本が睡眠不足について
11本が睡眠時間の延長について
2本がサーカディアンリズムについて
9本が時差ぼけについて

睡眠不足について
2-4時間の睡眠不足でも悪影響
筋力等は影響を受けたり受けなかったり。
特に反応時間や判断能力、意思決定と言った認知機能が低下する
4時間遅寝よりも4時間早起きの方が悪影響が大きいかもしれない

睡眠時間の延長について(多くは2時間の延長)
疲労感や眠気の改善はもちろん
スプリントタイムやシュートの精度が改善
反応時間等の認知パフォーマンス課題も改善

まだ研究は少ないが、
昼寝や睡眠不足になることが予想される前日に長く寝ることで運動タスクや認知タスクの結果が改善するかもしれない。

サーカディアンリズム
光ではない刺激である運動でも変化する可能性があり、運動する時間を変えることで時差ぼけの影響を減らせるかもしれない

時差ぼけ
西から東へ移動すると主観的な疲労感、意欲、時差ぼけ間が悪化する

時差ぼけ緩和策
朝日を浴びることと夜にスマホ等の人工的な光を避けること

Sleep Hygiene for Optimizing Recovery in Athletes: Review and Recommendations

④イップスに陥る過程と、抜け出す方法

イップスの抜け出し方について、実症例がどのようにイップスに陥り、どんな心的変化を経て改善に向かったかをまとめ考察した内容の論文です。

こちらはメカニズム的な話は考察によって変わりますが、概ね傾向はどのスポーツでも似たものになるかと思います。

ポイントは、一度本人が「技術的な問題なのか、精神的な問題なのかわからず葛藤する」というフェーズを挟んでいることですね。

運動学習の動画でも解説しましたが、「新しい感覚を作っていく」という作業が必要になるため、比較的イップスの脱却は時間がかかると言われています。

複線径路・等至性モデル(TEM)による送球イップス経験者の心理プロセスの検討

⑤膝蓋腱を傷めるリスクファクター

正直目新しくはないですが、膝蓋腱障害に対するリスクファクター(修正可能=なんとかできる)に関する論文です。

エビデンスレベルは弱めですが、要約すると

  • 足関節背屈可動域低下
  • 大腿前面後面の筋の柔軟性低下
  • 頻回なジャンプトレーニング

が重なるとリスクが高まるようです。

「硬いままやりすぎるとダメ」をそのまま体現していますね。

Modifiable risk factors for patellar tendinopathy in athletes: a systematic review and meta-analysis

⑥ストレッチにより筋肉量・筋力はキープされる

2010年と少々古いですが、トレーニングを中断している期間であっても、ストレッチを続けることによって筋肉量や筋力はある程度キープされる可能性があるという研究です。

筋肉量=筋断面積と見做していいのかは議論の余地がありそうですが、スポーツ現場は十分にトレーニングができない期間があったりしますから、プログラムを立てる一助になるかもです。

ディトレーニング中のストレッチングが筋量に及ぼす影響

⑦アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる

こちらの神戸大学の研究です。

アイシングの効果の是非は、近年よく議論されるようになりましたね。

個人的には疼痛抑制としてのみ使用することが多いですが、こちらの研究だけではなく急性の障害に対するアイシングの効果(炎症抑制・組織再生など)はマイナスの影響があるという意見が今のところ優勢のようです。

アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる

⑧スポーツパフォーマンスには夜型よりも朝方の方がいいかもしれない

選手の中には、夜型もいれば朝型のプレーヤーもいるでしょう。

こちらはクロノタイプ(朝型or夜型)に分けて、睡眠とスポーツパフォーマンスの関連を調べた研究です。

ここで言及されているのは、「朝型の方が睡眠の質が良い→パフォーマンスも良好になる傾向」ということでした。

Sleep quality and athletic performance according to chronotype

⑨朝食を抜いて運動すると、その日のエネルギーバランスはマイナスになる

こちらも、筋トレ界隈なんかではよく議論されている内容ですね。

グリコーゲンが枯渇している朝に、朝食を摂らずに筋トレしたらどうなるか…みたいな話です。

この研究では、朝食を抜いて運動すると、その日24時間のエネルギーバランスはマイナスになってしまうことが言及されています。

筋トレする人にとっても、スポーツ選手にとっても、これは良くないので朝食はしっかり食べるべきですね。恩恵を受けられるのは、無理なダイエットをしたい人くらいかな…笑

Skipping Breakfast Before Exercise Creates a More Negative 24-hour Energy Balance: A Randomized Controlled Trial in Healthy Physically Active Young Men