こんにちは、西川です。
今回は、スポーツ現場におけるトレーナー職の現状と未来という、ある意味少しヘビーなお話をしたいと思います。
僕自身、2019年は年間9回の海外遠征を経験し、海外滞在期間は年間で約4~5ヶ月ほどになりました。
そしてテニスは良くも悪くも世界中を周らなければいけないスポーツのため、僕も海外遠征で途上国・先進国など様々な国にいき、また様々なスポーツに関わる人たちと出会ってきました。
そうするうちに感じるようになった、トレーナー業の世界的な現状と未来を、こっそり語ってみたいと思います。
ちなみに前提として、全世界すべての国に行き、すべてのスポーツを見てきたわけではありません。
参考までに、僕がこれまで遠征で訪れた国は、
アメリカ、カナダ、オーストラリア、中国、フィリピン、マレーシア、タイ、シンガポール、スリランカ、インド、香港、ネパール
で、ディスカッションを交わしたことがある国(のコーチやトレーナー)は上記に加え、
イギリス、ドイツ、フランス、フィンランド、カンボジア、インドネシア、ブラジル、スペイン、ブルネイ、チリ
の、合計22ヶ国となります。
一見多いようにも見えますが、世界には250を超える国があり、途上国や新興国、先進国などでそれぞれ経済背景も違えば、スポーツを取り巻く環境も180°異なります。
なので、「世界では〜」「海外では〜」のような大きな話ではないことをご理解ください。
それでは、前置きが長くなりましたがはじめます。
■「トレーナー需要」は私たちが思っているよりも多くない
しょっぱなから身もふたもない話ですが!笑
誤解や偏見を恐れずに言えば、スポーツ現場においてトレーナーという仕事は、僕たちが思っているよりもっとずっと需要が少ない仕事です。
「いや、そんなことない!海外では〇〇で、資格や役割も分かれてる文化があって〜」と言いたい気持ちもわかるのですが、それは僕たちがトレーナーで業界の中身を日々ウォッチしているからであって、世間一般には私たちの業界のことや、その変化などは目にも止まっていません。
そりゃもちろん、体が資本であるスポーツ選手にとって、私たちの仕事は超重要に思えますし、実際重宝されることは間違いないのですが。
特に発展途上国や日本、中国のようにトレーナーが関わる文化が少ない国の現場では、そもそも実際にトレーナーのサポートを受けた経験に乏しいので、どれだけ効果があるか?必要なのか?が理解されていないのが現状と言えます。
※ただこれは言い換えると、大きなチャンスであるとも言えます。関係ない話ですが、アフリカでかつてみんな裸足で歩いていた時代、靴の需要はありませんでしたが、靴を持ち込みその良さを体験してもらう人が出てきたことで、その需要はどんどん増えました。早い話が、トレーナーを取り巻く市場は、この「みんな裸足で歩いてる」状態だとも言えます。
■選手やチームにトレーナーが常駐するのは「贅沢品」である
とはいえ、需要を掘り起こすだけで定着するものでもないな、とも思います。
私は今、米フロリダに海外遠征に来ていて、現地でこの記事を書いているのですが、とある競技のジュニア世界ランキング3位の選手が同1位の選手に対して、
「キミは、専属コーチやトレーナーがいて羨ましいよ。僕は専属のトレーナーがいないからずっと怪我が続いてるし、他のみんなもそうだよ」
と言っていました。
繰り返しますが、これを言ったのはジュニア世界ランキング3位の選手です。
一般的に、トレーナーの保有資格による役割の違いや分業の話は、アメリカの資格事情から派生していることが多いように思います。ノウハウの良し悪しは脇においても、スポーツビジネスとしてもっとも経済が回っているのはアメリカですし、だからこそトレーナーも分業ができるわけなので。
しかし、そんなアメリカでさえ、上記のようにジュニア世界ランキング3位の選手でも専属トレーナーはおらず、私たちの仕事は贅沢品とされているのが実情なわけです。
スポーツを割としっかり取り組んだことがある人ならわかると思いますが、競技によって程度の差はあれど、頑張れば頑張るほどお金がかかります。
レッスン代、用具やウェア代、遠征費などなど…
その中でトレーナーのサポートも!というのは、アメリカなどの先進国であっても贅沢品として捉えられているのが現状で、私たちはこのことを理解した上で仕事を展開しなければいけません。
■「現場のトレーナー」だけにこだわるより、複業的に展開しよう
今現在、トレーナーとしてスポーツ現場で仕事をしていて、それで仕事内容的にも収益的にも満足しているのならば、今のスタイルを変える必要はひとまずないでしょう。
しかしこれからスポーツ現場での仕事を作っていきたい!と考えるのであれば、「スポーツ現場の仕事」と「それぞれの持ち場での仕事」を複業的に(あえて「副業」ではなく「複業」と書きました)展開した方が良いでしょう。
スポーツ現場でトレーナー活動をする場合、それぞれの持ち場も同時進行でするのが現実的&効果的なんだろうなと思う。
例えば医療従事者なら、医療機関に勤めつつ現場に出る。フィットネスコーチならフィットネスジムに席をおきながら現場に出る。そして双方で選手のサポートをする。
— 西川 匠 Takumi Nishikawa (@physio_tennis) December 25, 2019
お金の面だけで考えた時、なんだかんだ言ってもメディカル面での対応は医療保険下でやった方がコスパが良いのは間違いないです。
病院やクリニックのリハビリだと、単位の加減でできることに限りがあありますが、時間的な制約はスポーツ現場も同じことですし、やっぱり3割負担でサービスが受けられる日本の医療機関の質は素晴らしく、僕たちも選手側もこれを使わない手はないと思います。
一方で、スポーツ現場での活動は僕たちの根幹でもあるところ。
何よりスポーツ志望のPTなどは、現場が好きで現場で仕事したい!という思いも強いでしょう。
例えばスポーツで腰痛になって、股関節の動きが原因だったとする。
けど本質的に、現場でその動きを見て、現場の人たちと意見を擦り合わせて、現場で試行錯誤しなければ根本的には解決しない。
リハ室で完結すると思ってる人も多いけど、そんな簡単なわけないよね。
トレーナーは現場出てナンボだよ。 pic.twitter.com/rAjzEthWpc— 西川 匠 Takumi Nishikawa (@physio_tennis) December 17, 2019
僕はスポーツで独立する6年以上前から、『現場を拠点とする』を自分の活動のコンセプトとしています。それは上記のツイートのような意味合いがあるのですが、リハ室やジムだけでサポートしてて選手のパフォーマンスに貢献できるというのはありえないと僕は考えていて、やはり現場に出なければいろんな意味で成果が出ないので続かない、と思っています。
なので、冒頭のように、スポーツ現場の仕事を、それぞれの持ち場を複業的に展開することが望ましいと考えています。
■スポーツ現場において、トレーナーのサービスはコモディティ化されるべき
ここからは、西川が海外の現場に行くたびに感じていることを書いていきます。
「スポーツ現場において、トレーナーのサービスはコモディティ化されるべき」
コモディティ化とは、「一般化」「民主化」という意味合いで使われます。
例えば、youtubeの登場と i movieの編集によって、誰でもテレビのような動画が作れるようになりましたね。
これは、「映像のコモディティ化」と言えるでしょう。
この記事を書いているnoteやツイッター、ブログなどの登場によって、誰もが新聞記事のようなものを作り、個人に直接届けることができるようになりました。
これは、「文章のコモディティ化」ですね。
このように、テクノロジーによって多くのものがコモディティ化されている一方で、まだ専門過ぎて一般化していない、コモディティ化していないものも多くあります。
トレーナー業もその一つ。
私たちの仕事は、まだまだ専門的過ぎてほんの一握りの人しか受けられない状態が続いています。
先にも書きましたが、スポーツ現場でのトレーナー活動は、保険適用にはならず自費のため、相当にお金に余裕がある人しかサービスを受け続けられない。
これは日本に限ったことではなくて、僕がディスカッションしてきた全ての国で言えることでした。
業界においてこれはsocial issueと言えます。
逆にいうと、この「コモディティ化」はテクノロジー系企業にとって大きなビジネスチャンスでもあるため、儲かる産業順に進んでいます。
スポーツ産業(特にスポーツ競技)は、幸か不幸か市場が狭く儲けが出にくい市場構造をしているため、テック系企業によるコモディティ化がまだ進んでないんですよね。
ただ、身近なところではDrの診療をAIロボットが行ったり、がん検診などは手軽にコモディティ化の波がきたりしていますね。
血液1滴でがん判別!東芝が生んだ技術の全貌 2時間以内に99%の精度でがん検査が可能に
これはすごい!早く人間ドックに組み込んでほしい!! https://t.co/VAoAgzz8C8— のらえもん (@Tokyo_of_Tokyo) December 20, 2019
リハビリ業界自体も、いろんなテック系企業がコモディティ化を目指していますから、スポーツ現場に関わる私たちトレーナーの仕事も、いづれはこの流れと一緒に進んで行くことになるでしょう。
■コモディティ化のための具体的な方法
では、私たちのサービスが「一般化」「民主化」されるべきとして、具体的にどんな方法があるのか?そして、僕たちはどんな風に関わっていけそうか?
これはもちろん正解はありませんが、現時点で西川が考えていることをお伝えします。
①スマホのアプリでできる分析(AIやIOT)
先にも書きましたが、インターネットやスマホを活用した分野はどんどん進んで行くでしょう。
ランニングフォームを分析し、ランナーの目標達成をサポートするハイテクスニーカーを体験しました。ZOZO Fashion TechNewsマジで面白いしタメになる!>【体験レポ】スマートフットウェア「ORPHE TRACK」、田端信太郎と靴の未来を考えてみた|ZOZO FashionTechNews @zozotech https://t.co/uJxxqK734E
— 田端信太郎@Carstay CMO就任!#VANLIFE シーンを盛り上げる! (@tabbata) December 12, 2019
まだスポーツ競技には入っていませんが、新しいものでいうと↑こんなのが出てきています。
靴にかかる圧なんかを計測して、ランニングフォームの分析できるシステムです。
話題のZOZOはこうしたてテクノロジー分野に積極的ですから、ツイッターなどをウォッチしておくと最新情報も入ってくるのでおすすめです。
こうした分野が進んでいけば、競技スポーツのあらゆる動作が分析可能になってくるでしょう。
これまでもこうした分析システム自体はありましたが、大学の研究機関とかの一部の専門機関でしか使われず、またモノも高額でした。
今後は、スマートフォンと融合してアプリのように安価なシステムがどんどん出てくるでしょう。
そして、一つの面白い働き方として、こうした競技スポーツに関わるテクノロジー系企業とタイアップするトレーナーも出てくるだろうなと感じています。
現時点でスポーツ現場で実績があったり、もしくはSNSなどで発信力がありテック系企業の方と繋がっている方などは、より可能性が高くなりそうです(僕自身は積極的にやろうとは思っていませんが)。
②オンラインレッスンなど、経費を落とし単価を下げられるサービス
先の話とも繋がりますが、オンラインでのトレーニングやセッションなどは、今後かなり拡大していくだろうと思っています。
↑こちらのnoteにも書いたのですが、5Gも始まってより一層オンラインレッスンの市場は広がりを見せるでしょう。
僕らのような徒手療法をするセラピストは気がつきにくいですが、対象者の体に触れずに指導するパーソナルトレーナーの方なんかは、「別にジム作ってそこでやらんでも、ネット越しにやった方がお互い楽じゃね?」って気がつきはじめています。というか実践しています。
なんと!世界トップのアスリートがNowDoへ仲間として加わってくれることが決まりました! @keinishikori @YutoNagatomo5 #石川遼
彼らがメンターやってくれるとか、全く想像できない。。https://t.co/kXeqg6clzO
— KeisukeHonda(本田圭佑) (@kskgroup2017) December 13, 2019
錦織圭さん、石川遼さん、長友さんが本田さんの経営するNowDoに出資! https://t.co/JlpulD4Feo
— 田端信太郎@Carstay CMO就任!#VANLIFE シーンを盛り上げる! (@tabbata) December 13, 2019
↑現役選手や引退した選手が、一般の方にオンラインレッスンを行う。そんなサービスを本田圭佑選手が立ち上げ話題になっています。
これに長友選手や石川遼選手、僕の専門であるテニスも錦織選手も投資しており、ZOZOの田端氏が広報担当を担っているようです。
僕自身も、こうした流れはまずスポーツ指導者や選手の発信から始まるだろうなと思っていましたが、時代の流れは思ってより早そうですね。
なお、大きく事業展開するのでなく、個人のトレーナーとして今抱えている選手やお客さんをオンラインでサポートするのであれば、今現時点でももうすでに可能ですし、動きが早いトレーナーはすでに実践しています。
(僕もメインの事業ではないですが、たまにオンラインのサポートをやってたりします。テニス選手は世界中を転々とするので、オンラインの方がやりやすかったりするんですよね)
②動画媒体でのトレーニングノウハウの発信
最後は、動画でトレーニングノウハウを提供するというものです。こちらもシステム自体はもうすでに可能です……というか、僕自身もこれを提供しています。
【選手の体を学ぶテキスト】
トレーナーやPTのような専門家から、
指導者様、各スタッフ、保護者、選手までが
『スポーツ選手の体』について学び共有できるコンテンツを作りました。トータル約10時間分のボリュームです。
随時追加していくので、お得な内にどうぞ!!https://t.co/gDDjw70CdK
— 西川 匠 Takumi Nishikawa (@physio_tennis) October 24, 2018
↑このテキストは、僕らのようなトレーナーの専門知識やトレーニングノウハウを、できるだけ現場の人たち(指導者や保護者、選手など)と共有したいという考えで作りました。
これはまさに、トレーナーの知識と技術をコモディティ化している一つの例であり、僕自身もびっくりだったのですが昨年10月に作成してから1年2ヶ月で500部以上も売れました(ありがたい限りですm(_ _)m)。
今振り返ると、これだけみなさんに買っていただいたのは、先に書いた「トレーナーが常駐するのは贅沢品である」「僕らの知識や技術はコモディティ化されるべき」という時代の流れの裏返しでもあるのかなと思っています。
2019年12月現在、こうした動画媒体の教材というかテキストはまだ少ないので、増えて行くだろうなと思っています。みなさんも、トライしてみるといいかもですね。
(ただし、やり方や発信を間違うと「情報商材」としてバッシングを食らうので、やり方は気をつけましょう)
あと、こっそり僕が考えていることを言うと、このような動画媒体でのコモディティ化は、先に書いたように世界中で必要とされているので、僕自身は時間ができたらこの「選手の体を学ぶテキスト」を英語版にリメイクして世界中に発信したいな、とも思っています。
現時点ではSNSなどで海外のフォロワーは多くありませんから、テキストを提供する前に発信に力を入れるべきですが、ゆくゆくはやっていきたいですね。
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2018年、そして2019年と、年間で8~9回の海外遠征を行い、おそらく2020年もこのペースが続くのだろうと思っています。
海外のスポーツ現場は、良くも悪くも日本のスポーツ現場に必要なことを教えてくれますので、引き続き最新情報を発信していきます。
そんじゃーね!