今回の記事は、僕がブログで書いていた
「ジュニア選手の不調と対策シリーズ」の最終話となります。
※まだ見てない方はこちらからどうぞ
ブログ記事自体はフリーでどなたでも購読可能です。
この最終話は、
「ストレスやトラウマによる不調を医科学する」
というテーマでお話をします。
ですが、最初に書いておきます。
この記事は、本当はたくさんの人に読んでもらいたいとは、あまり思っていません。
なぜなら、選手のメンタルに関わることで、非常にデリケートだからです。
もちろん内容には根拠を持って書いていますが、なんとなく興味本位で読んで誤解されたり、この記事を読んだ方や選手本人が感情的になって、不愉快な気持ちにさせてしまう可能性があるので、本当に困っていて解決策を模索している人だけに読んでほしいのです。
しかし、本当に困っているコーチや監督、保護者、トレーナー、そしてジュニア本人にとっては、他ではあまり知ることができない情報を書いていると自負しています(西川が実際にとってきたデータから考察しているので!!)。
この記事で書いている内容
ストレスやプレッシャーによって、選手には様々な不調が出てきます。
具体的には…
- 大事な試合が近づいてくると、なぜか体が不調を起こす(怪我をする)
- 試合当日まで何ともなかったのに、試合になると急に体に痛みがでる
→とくに、試合中不利になると、その傾向が強くでる - ケガや体の明らかな不調があるにもかかわらず、病院などで検査しても原因が見つからない
- 不調の原因が「メンタルが弱いからだ!」と指導者に言われ(もしくは自分自身で思い)、それでも長い間解決しない
- 明らかに突発的(転倒したり、どこかにぶつけたり)なケガが次々起こる
- 不調が全身(体が固くなったり、筋力やスピードが落ちたり、時には視力が落ちたり)に及ぶ
- 周りから見ていて、「あの選手、精神的に疲れてるだろうな…」と思っているにもかかわらず、選手自身はそうした素ぶりを見せない。しかし、明らかにパフォーマンスは落ちている
↑この記事を開いているということは、こんな状況に遭遇したことがきっとあることでしょう。
これらをなんとかするには、メンタルと体の関わりをしっかりと知る必要があります。
この記事では、こうしたメンタル面の変化で起きる体の不調について触れています。
文章も、一般の方やコーチ、選手本人が見ても理解できるように噛み砕いて書いています。
それでいて、トレーナーや専門の方が読んでも違和感がないような質に仕上げました。
なので、ジュニア選手本人や、周りのスタッフ全員で共有することができると思います。
そして、もう一点。
先に、結論を言っておきます。
上述の悩みがある方は薄々気がついているかもしれませんが、これらの症状に特効薬は今のところありません。
結局のところ、選手自身が乗り越えなければいけない壁、ということになります。
しかし、症状の正体を知ることで、周りの人間はどのようにサポートするべきかは見えてくるはずです。
選手がこのような状態のとき、もちろんジュニア本人は苦しいですが、周りの人間も本人に何がおきているのかわからないから、どうサポートすればいいかわからないという悩みを抱えていることが多いです。
なのでこの記事を読むことで、少なくても正しいサポートの仕方はできるようになるでしょうし、苦しんでいる選手の背中を押すこともできるようになるはずです。
あ、でも、僕も日々この問題について向き合ってる身ですから、新しい所見や良い対処法などは出てくるかもしれません。
その時は、その都度記事をアップデートさせていきます。
さて、長くなりましたが、本題に入りましょう。
「ジュニア選手の不調と対策シリーズ」の最終話。
ケガや不調に悩む選手が、一人でも少なくなりますように……
第1章 不調の正体
いきなりですが、冒頭で挙げた不調についてもっともよく見られる、
「転換性障害」もしくは「転換型ヒステリー」
について、この記事では詳しく書いていこうと思います。
※僕はDr.ではありませんので、全てのケースがこれに当てはまるとは言えません。この症状と断定するには、それなりの順序を踏む必要があります(第2章で書いています)。
ここでは、「そういう症状がある」ということを知っておく、くらいで留めておいてください。
転換性障害、転換型ヒステリーとは
まず、それぞれの定義を見てみましょう。
以下は、医学大辞典からの抜粋です。
【転換性障害】
神経学的疾患あるいは身体疾患では説明できない、随意運動または感覚機能についての症状を示す精神疾患。例えば麻痺、失声、知覚障害、痙攣などの症状を示すが、それら症状の発言は既知の解剖学的経路や生理学的機序とは一致しない。 〜中略〜 精神分析学の理論によれば、抑圧された無意識的な心理的葛藤から身体症状へと置き換えられる転換という心理機制によって症状が出現するとされており、何らかの心理的要因が転換性障害の発症または悪化に影響を与えていると考えられる。その症状が意図的に作り出されたものではないという点で、詐病や虚偽性障害とは異なる。
うーん、難解!!わけわからんわ!!
次に転換型ヒステリーの定義を。
【転換型ヒステリー】
転換機制に基づく身体照応を主症状とする神経症。転換とは、抑圧された無意識的な心理的葛藤から身体症状への置き換えが行われるという心理機序。
……やっぱりムズイ!!意味不明!!
ってことで、わかりやすく図解してみました↓
ざっくり言うと、「ストレスで胃が痛い」のと似ています。
例えば、本人にとって大事な試合が近づいてきた時。
例えば、試合中に不利な状況(それも、絶対ここでは負けられない!と言うところで)になった時。
他にも、たくさんの場面で、ジュニア本人は、とてつもないストレスを感じます。
この精神的なストレスが、体の痛みや不調、めまいや吐き気、感覚が鈍ったりという体の症状に置き換わって出てしまうのです。
転換性障害はその名の通り、症状が「置き換わる=転換する」ことを示しています。
※転換型ヒストリーも似たような状態です。医学的な分類は細かくいうと異なりますが、まぁ一般的には同じものと捉えて支障ないです。
これだけなら、何となく皆さんにも経験があることだと思います。
嫌な仕事の前に憂鬱な気分になることは、誰にだってあることですからね。
しかし、転換性障害の場合、「常識で考えてストレスでは起こらないだろう」ということまで起きてしまいます。
以下は、実際のジュニア選手で見られた例です↓
- 昨日まで体が柔らかかったのに、明らかに関節の柔軟性が落ちている
- 耳が聞こえなくなる
- 足が腫れる
- 内出血が起こる
- 手先や足先が冷える
- 足がもつれ、よく転倒するようになる
- よく足をねんざする
「転倒する」とか「足が腫れる」とか、ストレスでそんなことありえるんかい!
って、思うことでしょう…ええ、僕もなんども思いましたよ。
しかし、これらは本当に症状として起こりえるのです。
本当に、ストレスを感じる時だけ足が腫れるんですよ‼︎まるで打撲したかのように…
そして、「ストレス」が「足のもつれ→転倒」に置き換わることだってあるんです。
※「転換性障害 歩けない」とYahoo!かGoogleで調べると、そういう記事がごまんと出てきます。
全て、嘘のようなホントの話です。
置き換わってるだけだから、検査で異常が出ない‼︎
転換性障害の特徴は、上にも書いた通り「置き換わる」ことです。
つまり、体に何らかの症状が出てるからといって、病院に行って検査しても、何の異常も見つからないのです。
そして転換性障害の場合、いくつもの場所が痛んだり、ケガが重なることがほとんどです。
けど、膝と腰と肘が痛いからといって、整形外科でそれぞれのレントゲンを撮っても「異常なし」となる場合がほとんどです。
なぜ、普通ではありえない症状が続くのか?
ここで、一つ実際にあったストーリーを。
。。。。。。。。。。。。。。
ある選手Aくんは、将来とても有望とされ、いつも周りから期待されていました。
試合会場に行くといつも、たくさんの人から「Aくん、今回ももちろん優勝だよね。頑張って」と言われます。
Aくんは、その都度、作り笑いをしてやり過ごしていました。
ところが、トーナメント一回戦で、Aくんは思わぬ苦戦をします。
立ち上がりに調子が上がらずミスが続き、気がつけばスコアは0-3。
予想外の出来事に、会場にいた選手や保護者はザワつき、Aくんの試合を見に集まってきました。
「Aくん、どうしたの?」
「もう0-3だって」
「調子悪いのかな」
などなど、いろんな声が聞こえてきます。
そしてここで、Aくんにある異変が起きます。
走るたび、腰や肘が痛くなってきたのです。
周りから見てても明らかなくらい、Aくんは腰や肘をかばって試合をしています。
とても、演技でやっているようには見えません。
そしてスコアは1-5。
ここで最悪の事態が起きます。
サイドに大きく振られたボールを追いに行った時、足がもつれて転倒してしまったのです。
その時に、足首をぐねってしまいました。
誰がどう見てもねんざです。
当然そのあとは動けずに、試合は負けてしまいました。
会場にいた周りの人たちは、
「Aくんが一回戦で負けちゃったんだって」
「調子が悪かったのかな」
「なんか、腰が痛そうだったよ」
「最後、捻挫しちゃったみたいだし仕方ないね」
と、Aくんに同情する声。
Aくん自身も、当然悔しそうにしています。
というより、「優勝を期待されていたのに、一回戦で負けてしまった…」と、呆然としています。
今まで、腰も肘も痛めたことなんてなかったのに…
ねんざだってしたことなかったのに…
そして、時間が経ち、我に帰ると不思議に思います。
体を動かしても、あまり痛くないのです。
捻挫した足首は痛みますが、試合中痛かったはずの腰や肘は、どう動かしても痛くありません…
。。。。。。。。。。。
このエピソードで、気がつきましたか?
まさにこれが、現場でよく見る転換の症状と言われます。
Aくんは、転んで捻挫をしてしまったのは事実です。
これは、整形外科に行っても「軽度の靭帯損傷」という診断になるでしょう。
しかし重要なのはそこではなく、不利な状況になるにつれ、身体中に痛みが出て、パフォーマンスが落ちていった(足がもつれるまでに)ことなのです。
これがまさに転換=精神的ストレスが痛みや足の脱力に置き換わったという事例です。
捻挫は、その結果起こってしまったアクシデントというだけなのです。
転換性障害のうしろにある、選手の心理
Aくんの例は、ほんの一例に過ぎず、「置き換わる」現象はいろんな場面でいろんな症状として見られます。
- 大事な試合が近づいてくると、なぜか体が不調を起こす(怪我をする)
- 明らかに突発的(転倒したり、どこかにぶつけたり)なケガが次々起こる
- 不調が全身(体が固くなったり、筋力やスピードが落ちたり、時には視力が落ちたり)に及ぶ
- 周りから見ていて、「あの選手、精神的に疲れてるだろうな…」と思っているにもかかわらず、選手自身はそうした素ぶりを見せない。しかし、明らかにパフォーマンスは落ちている
では、「置き換わる」のはなぜなんでしょう?
そもそもなんで、転換性障害の症状が出てしまうのでしょう?
その背景には、どんな選手の心理があるのでしょう?
転換性障害の原因はなんだ?
まず、転換という症状は、選手がわざとやっているわけではない
ということです。
これは、医学大辞典からの定義にもある通りです。
その症状が意図的に作り出されたものではないという点で、詐病や虚偽性障害とは異なる。
ジュニアは時に転換の症状として、転んだり捻挫したり、身体中に痛みを感じることがありますが、これは自分の中に抱えている葛藤(ストレス)を無意識に抑え込み、その不安が身体症状に出てきていると考えられます。
身体症状として出すことで、自分の葛藤と向き合わなくて済みます。さらに病気や怪我であることが周りにも明らかにわかるので、周りの人から配慮してもらえるという現実的なメリットもあります。
つまり、転換性障害というのは一種の防衛反応ということになります。
体にSOS信号を出すことで、ストレスを発散させていると言われています。
ただ後述しますが、こうした事実を選手に伝えるときは注意が必要です。
なぜなら、これらの症状は選手本人としても「無意識で起きている」ことだからです。
自分の立場で考えるとわかると思いますが、自分としてはプレッシャーと向き合っている。
ストレスと戦っている、と選手自身が思っていたとします(同様に保護者も思っていたとします)。
そんな中、「キミが試合で体がおかしくなるのは、ストレスのせいだ」とか「プレッシャーを押さえ込んだ結果として、そういう症状が起きているんだ」とむやみに正論を振りかざしてしまうと、選手(保護者)のプライドを傷つけてしまうことになります。
それでも、事実は事実として伝えなきゃいけない?
ええ、気持ちはわかりますとも。
しかし、伝え方が大事と僕は考えています。
第二章で詳しく書きますが、最終的には選手自身に
- 転換という症状が存在し、それが自分に起きている可能性があること
- それは自分の意思とは関係なく(時には、自分の意思に反して)起こるものだということ
- 転換というものに対して正しく理解すること
- 最後は、自分で乗り越えなければいけないこと
を自覚してもらう必要があります。
難しいですよね。特効薬はないんです。
心の問題ですから。
僕も、たくさんの選手のケースを通して、多くの小児科Dr.と転換性障害について話したことがありますが、どのDr.も一様に「最後は本人が乗り越えなければいけないが、難しいものだ」と語ります。
しかし、これを乗り越えた時、その選手は間違いなく鋼のメンタルを手に入れているでしょう…!
さて、転換性障害や転換型ヒステリー。
ここまでは好き勝手に、ある意味全てのケースで転換の症状だ‼︎みたいな書き方をしてしまいましたが、第1章の冒頭で書いたように、転換性障害と本当に断定する前に、やらなければいけないことがあります。
それが第二章、除外診断です。
第2章 原因を探るべし
転換性障害は、実に多くのジュニア選手で見られます。
ある競技スポーツに関わる小児科医の話によると、
「軽い症状も含めると、トップ選手の30%は転換の症状が出たことがある」
と指摘するほどです。
しかし、こう続けます。
「でも、中には転換ではなく本当に体に異常が見つかるケースもある。だから、勝手に転換性障害と決めつけるのではなく、いろんな所に行って診察してもらうことが大事なんです」と。
では、具体的にどうしたらいいのでしょう。
まずは、本当に体の病気や怪我がないことを確認すること
転換性障害の多くは、たくさんの症状が一度にやってきます。
例を挙げると、
- ストレスを感じた場面で、腰や膝の痛み、めまい、脱力感、動悸息切れが一度に起こる
- しんどい練習の時に、視野が合わない、足が痛む、吐き気がする
など、とくにテニスの現場では整形外科的な症状と、内科的な症状が混ざり合うことが多いと感じます。
この記事を見たあなたなら、こうした現場に遭遇すると、「あ、これは転換性障害か!」と思うことでしょう。
しかし、もしかすると本当に腰や膝に疲労骨折があるかもしれません。
もしかすると神経系の何かが隠れているかもしれません。
なので、この記事を読んでいてどれだけ転換性障害が怪しいと踏んでいても、整形外科や内科への診察に行くことをオススメします。
そして、整形外科や内科、小児科などで何も原因がわからない、となった場合に初めて転換性障害を疑いましょう。
◆追記◆
転換性障害は女子の方が多いとされています。そして症状の中には「生理痛」や「女性ホルモンの変化に伴うもの」もあります。
なので、ジュニア女子にこうした症状が見られた時は、婦人科の受診も合わせて行うことがベターでしょう。
※僕のブログのシリーズに、女性ホルモン系の記事がありますのでどうぞ。
転換性障害を疑った場合、どこに受診しにいけばいい?
さて、ひとしきり症状に対して受診したにもかかわらず、全く原因がわからず症状も変わらない場合、転換の症状を考えることになります。
これもまた荷が重い話になりますが、受診先は「心療内科」になります。
もしくは、信頼できる「小児科」があれば、そちらの方がいいかもしれません。
なぜなら、心療内科を勧められる=「私は(僕は)この人に、精神がおかしいと思われてるんだろうか」と、これまた選手にとってストレスになってしまうからです。
場合によっては、大人への不信感につながってしまうでしょう。
先にも書きましたが、転換性障害は「本人はストレスが原因ではないと思ってるにもかかわらず「ストレスのはけ口として症状が出る」ため、選手自身は自分のことを至って普通と思っています。
なので、色々と診察を受けて原因がわからなかった場合、いきなり心療内科を受診するのではなく、転換性障害という症状について選手に(あるいは保護者に)説明して、きちんと理解してもらう時間が必要でしょう。
これには、時間がかかるかもしれません。しかし、時間をかけてでも理解してもらう必要があると思います。
なぜなら、最終的には選手自身が乗り越えなければいけないわけですから…
理解のある心療内科や小児科で転換性障害の症状だと判明すれば、薬による治療も受けることができます。
カウンセリングという手法もあるのですが、僕の経験上ジュニア達がカウンセリングを続けた試しはありません…(まぁ、当たり前ですね…苦笑)
と、このように転換性障害の治療は時間がかかります。
しかし、ここまで読むと、転換性障害ってエライ大げさというか、こんな医療機関に頼らなアカンのか‼︎自分らでなんとか出来んのか!!と思ったことでしょう。
安心してください(笑)
もちろん、僕なりに現場で体験した失敗や成功をもとに、転換の症状を見極めて対処する方法があるので、それを紹介します。
しかし、次からのお話は僕の経験則に基づくものなので、ここまでの話とは違って医科学的根拠はないということをご理解くださいね。
第3章 体に現れる予兆と、転換性障害の対策
個人的な経験則ですが、転換症状には体にいくつかの予兆が現れることが多いです。
そしてそれは、思いっきり数字として現れてきます。
B選手のケース(守秘義務のため、複数のケースをミックスさせています)
B選手はもともと柔軟性が高く、体をしなやかに使える選手でした。
また、もともと動きがスピーディで、フットワークの能力も高い選手でした。
しかし、その選手が、ある7月の試合中に、急に動きが鈍くなったことに気がつきました。
そしてほぼ同時期に、関節の柔軟性が落ちていることもわかったのです。
↑これは、僕が現場で選手に行なっているチェックの一つで、肩や股関節などの関節の柔軟性を数値化したもの(関節可動域測定:ROM測定)で、上の数値は症状が見られる約2ヶ月前にとったものです。
そして、問題の症状が起きる前、6月下旬にとった可動域の数値が以下です↓
赤ワクで囲っている部分が、明らかに低下しているのがわかります。
そしてこのデータを取った約2週間後から、症状が出るようになりました。
また、少し違う側面からも見てみましょう。
この選手に関しては、インボディ(体組織計)というものを使って、各部位の筋肉量は脂肪量などを細かくデータ化していました。
↑これがインボディです。
機械により様々ですが、↑こんな感じで細かく数値を取ることができます。
※ちなみに、写真のは僕のインボディの数値です。なんか恥ずかしい!!
このインボディでB選手のデータを継続してとっていると、ある変化が起きていることに気がつきました。
症状が出始めた時期に、明らかに体内の水分量が増えていたのです。
その量、なんと6.5kg…‼︎
しかし、興味深いことに(と言っては失礼ですが)、全身の筋肉量はそれほど変化なかったんですよね。
シンプルに考えて、筋肉というエンジンはそのままで6kgの水を抱えて動くと考えると、そりゃあ動きは鈍くなって当たり前でしょう。
ちなみに、水分量に関してはあらゆる考察やチェックをしました。
しかし、これまた明確な原因は見つかりませんでした。
後になってわかったことですが、転換性症状の中には臓器症状もよく見られ、吐き気や下痢が起きることもあれば、「尿閉(尿意がなく排尿しない=水分が蓄積される)」という症状も起こることもわかりました。
確かにB選手、この数ヶ月前から足がやたらむくんでたんですよね…
今、こうして書きながら振り返ってみると、転換症状の前触れだったのではないかと思います。
現場でできる対策はあるのか?
さて、ここからが、一番読者の方が気になるところだと思います。
ので、気合い入れて書いていきます笑
詳しくは一つずつ詳細を書いていきますが、考えられる対応(僕が現場でしているのも含めて)は、
- 可動域を継続して測る→症状の予兆を見つける
- 可動域の予兆があれば、まずはその対処をする
- 同時に、転換の症状かもしれないことをスタッフ同士で共有する
(保護者や本人との共有は慎重に) - 選手に対し、適切なサポートをする
- それでも症状が続く、酷くなるようなら「第二章」の対応をとっていく
がベターではないかと思います。
①可動域を継続して測る→症状の予兆を見つける
僕らのように専門家が測る「可動域測定」は、ゴニオメーターという専用の器具を使います。
しかし、一般の方がこれを使って測ることは難しいですし、たとえ使ったとしても正確な数値を測るのは難しいでしょう。
なので、目測(目で確認)する程度でOKです。
そして、それを写真で残しておきましょう。
また、測定するのは、胸椎の回旋が良いです。
↑胸椎。背中の上半分の部分です。
この部分を測る理由はいくつかあります。
まず、解剖学的な目線からみて、上半身の「体を捻る動き」はほとんどが胸椎だからです。
↑は背骨の一つ一つの関節がどのくらい動くのか、というのを調べた研究結果なのですが、胸椎(赤◯の上)に比べて腰椎(赤◯の下)は動きが小さいですね。オレンジの◯で囲っている頚椎(首の骨)も合わせると、腰椎は実は一番動きにくい部分になります。
…と、難しい解剖学の話はおいといて、この部分が硬くなると明らかにストローク動作がぎこちなくなります。
普通の球出しですら、「なんかしなやかさが無くなってきたな〜」と感じたら、だいたいこの部分が硬くなっていることが多いので、症状と数値に共通点が出やすいのも胸椎の特徴です。
胸椎を測った方がいい二つ目の理由は、転換性障害の症状が続いたとき、真っ先に固くなるのがこの胸椎だからです。
※これは僕のとったデータや経験に基づいています。重ねて書きますが、科学的根拠はありません。
体の中に関節はたくさんありますが、ジュニアたちが転換性障害の症状に襲われたとき、股関節や肩などはあまり変化がないにも関わらず、胸椎だけが硬くなり、前述のようにストロークの動きがぎこちなくなる、というケースを目にすることが、一度や二度ではありませんでした。
これをどう解釈するのかは、専門家の中でも意見が割れそうなのですが…
僕は個人的に自律神経系の影響ではないかと考えています。
自律神経というのは、自動的に働く神経のことで、主に内臓の働きなどの自動運転を担います。自律神経には大きく分けて2種類あり、戦うモード用と回復モード用に分かれます。
戦うモード用:交感神経
回復モード用:副交感神経
これらは入れ替わる形式で働き、どちらかが強く働いている時は、もう片方は働きが抑えられているのが正常です。自動操縦であるこの自律神経に問題が起こると、両者の入れ替わり作用がうまく機能しなくなり、戦わなければならない時に身体が動かない、逆に眠って休まなければならない時に眠れない、といった症状を引き起こしてしまいます。
そのような症状が起こってしまうと、なかなか自分では思うようにコントロールすることが難しくなり、場合によっては競技の継続が難しくなってしまうこともあります。
転換性障害は、第一章で書いたように、「精神的ストレスを、体の症状として置き換える」ものです。
筋肉が硬くなったり力が入らなくなったり、あるいは吐き気や下痢、炎症反応など様々な症状が出てくるのは、自律神経系のコントロールができない状態になっているのではないかと考えています。
くどいですが、これらの仮説に科学的根拠は一切ありません。
今まで見てきた症状や、神経生理学的に共通する部分、また色んな改善策を試した結果、西川が勝手に立てた仮説です。
そもそも転換性障害のメカニズムは確立されたものがないですし、自立神経系なんて目に見えないことですからねぇ…
ともあれ、こうした理由(仮説)から、胸椎を測るメリットはかなり大きいと考えています。
なので、オススメは定期的にジュニアたちが胸椎を回すところの写真を撮っておくことですね。
胸椎回旋の測り方。
専門的な測り方はありますが、ここでは置いときます。
一般の方でも見て簡単に判断できるような測定方法は、以下の通りです。
①選手に正座をしてもらい、両手を組んでもらう(肩甲骨や肩の動きを止めるため)
②頭はまっすぐのまま、胸を左右に回す
③それぞれ回し切ったところで止まってもらい、写真を撮る
これだけです。
たったこれだけで大丈夫です。
簡単でしょ?
↑これは正座ではなくベットに座って測っていますが、こんな感じで大丈夫です。
転換性障害の影響で硬さが出てくると、こんな写真でも明らかに分かるくらい硬くなっています。
ちなみに、正座の姿勢を取ってもらうのは、骨盤が動かないように固定するためです。
測定は少し面倒ですが、月に一度はやったほうがいいでしょう。
そして、画像の名前を「20XX年X月X日」みたいに日付で残して、選手ごとにPCに記録しておきましょう。5分くらいでできます。
これで、いつも見ているジュニアが転換性障害のような症状になった時、いつ頃から予兆が出ていたのか振り返ることができるようになります。
僕の見てきたケースだと、それまで順風満帆だった選手が、急に大事な試合でやらかしてしまって、その時から転換性障害の症状が見られはじめた。
振り返ると、大事な試合の一ヶ月前から胸椎の硬さが出始めていた、という感じの時間軸が多いです。
つまり、大事な試合の一ヶ月前には、表には出していなくても精神的なストレスが限界に達していて、胸椎の硬さとして信号を出していたことになります。
これに初めて気がついたとき、それまで見逃していた自分がホントに情けなかったですね…
なんでその選手のストレスに気付けなかったのか、と。
しかし、この結果を保護者の方に伝えても、意外と「その頃は家でも普通でしたよ!?」となるケースが多いんです。
つまり、人知れずたった一人で、ストレスと戦っていたんでしょうね…
②可動域の予兆があれば、まずはその対処をする
胸椎を定期的に測っていて、硬さが見られた時は胸椎のストレッチをしてみましょう。
胸椎のストレッチは、深呼吸なども加えることで心身ともにリラックスできる手法がいいですね。
一つ、具体例を紹介します。
四つん這いになり、写真のような姿勢をとりましょう。
手を前に出し、顔を正面に向けたまま胸を地面に着けるようにおろしていきます(↑の写真は下を向いちゃってます、悪い見本!!)。肩が痛いようなら、親指を上に向けておくと負担は軽くなります。この時、お尻が後ろや前に動かないようにキープします。
左腕を身体の下を通して右側に出します。右腕はまっすぐに空を指します。その状態で一度キープ。首や肩をリラックスさせます。
胸の前で両手を合わせ、手のひらで軽く押し合います。そのまま深呼吸を2回行います。反対側も行い、最後にもう一度正面で胸を伸ばします。
こんな感じでストレッチをしてみて、終わったらもう一度胸椎回旋の写真を撮ってみてください。この時点でかなり柔らかくなっているのなら、ストレスなどの自律神経系が原因で固くなっていたと考えられます。
なぜなら、根本的に筋肉が硬くなったり関節の動きに制限があるのなら、この程度のストレッチでは改善しないからです。
ちなみに、このストレッチで柔らかくなっていても、自律神経の問題や転換性障害の根本となるストレスが消えたわけではないので、効果は一時的なものです。
これは一時的な対処(といっても、これが効果があるなら毎日のルーティンに取り入れるべきですが)ですし、大事なのはここから。
スタッフや、保護者、本人と力を合わせて根本解決することです。
③転換の症状かもしれないことをスタッフ同士で共有する
(保護者や本人との共有は慎重に)
これを読まれているアナタが、もし一人で選手を教えてるのなら、他人と共有する必要はないと思います。
しかし、他のコーチやトレーナー、治療家などもチームとなってその選手の育成をしているなら、まずはスタッフ全員で共有すべきでしょう。
え、ここまで読んできた知識を自分で伝えるのは無理って?
それなら、この記事をそのまま読んでもらいましょう笑
僕の立てている仮説や対処の方法については賛否があると思いますが、別にそれは構いませんし、選手に何がおきているかの全体像はみんなで共有できるはずです。
さて、問題はスタッフよりも保護者、そして本人にどう伝えるかですね。
④選手に対し、適切なサポートをする
本人や保護者と、しっかりした信頼関係があることを前提とします。
本当にその選手のことを思うのなら、現状から目を逸らすのではなく、向き合うべきだと僕は思います。
そしてやはり、この記事をそのまま読んでもらったほうが手っ取り早いでしょう(笑)
「精神的ストレスを、体の症状に置き換える」「本人としては無意識」「身体症状として出すことで、自分の葛藤と向き合わなくて済むと(深層心理で)考えている」などは、聴く人にとっては信じられないでしょうし、そんなはずない!!と感情的になってしまうのもわかります。
しかし、体の専門家として言わせてもらうと、これは「本人の性格やメンタルが悪い」からなっているのではなくて、「体の構造上おきてしまっている」ということです。
本人に悪気はありませんし、性格の問題でもありません。
もちろん、両親の育て方やコーチの指導が悪いためでもありません。
誰が悪いということではない、と僕は思います。
個人的にですが、
弱音や愚痴を吐ける相手を作ったり、真面目や正論から解放される環境を作ったり。
そうした環境作りは大事かなと感じます。
”人間性が素晴らしい”選手ほど、こうした悩みを抱えやすいですからね。
⑤それでも症状が続く、酷くなるようなら「第二章」の対応をとっていく
つまり、医療機関へ受診しに行き、原因を探る、ということです。
本当に症状がひどい場合、投薬治療も受けられますし(本人が治療を受け入れるなら、ですが)、薬で症状はずいぶん軽くなることが多いです。
もちろん、並行してストレスの対処は続けましょう…
最後に
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
どうでしたか?あまり「これ!」という解決策ではなくてガッカリさせてしまいましたか?
えらそうに書いている僕も、この分野を日々研究中ですし、まだまだ道半ばです。
正直、そんな状態で書いて世に出すのはちょっと抵抗があり、書きながら何度もやめよっかな…と思いました。
自分の力不足で選手達を不幸にしたケースもあったので、それを思い返すのも正直しんどかったですし!!
ですが、これを読んでジュニア本人やコーチの方が、少しでも「どうしたらいいか分からない」から抜け出すことができれば、本望です。
ひとまず、僕はこれを書き終わったので、さらなる解決策を探るべく精進します。
多分、これをアナタが読んでいる頃には、新しいネタに行き着いていることでしょう(きっと!!)
あ、偉そうに書きましたが、読んでいて「自分はこう思う」とか「自分のケースではこうすると解決しました」みたいなお話があれば、どんどん僕にご意見をください。
それらもできる限り詳しく分析して、この記事に書き足してみなさんにシェアしていきますので。
競技の世界から、不調で諦める選手がいなくなる日をみんなで作りましょう。
それでは、また。
西川匠
動画や資料を見られていて、わからない部分や補足説明してほしい部分、「もっとこんな内容をやってほしい!」などあれば、TwitterのDMなどで随時受け付けていますので、お気軽にご相談くださいね〜!
追伸:スポーツを仕事にしたい理学療法士の方へ
- 自身の現状(勤務状況やスポーツとの関わり)、今後の目標を話していただけること
- 配布動画を全て見て、その後感想などの連絡をしていただけること
- スポーツ分野を仕事にしたいという強い気持ちがあること