こんにちは、西川です。
今回はタイトルの通り、理学療法という世界と鍼灸という世界を繋げてみるというテーマです。
僕は理学療法士であり、そのスキルをベースとしてスポーツ現場で活動しているのですが、日々現場で鍼灸のスキルを見ることがあり、「鍼灸の世界ってどうなってるんだろうな」「鍼灸ってすごいよな」と感じることがめちゃ多いです。
で、これは逆もまたしかりだと思うんですよね。
鍼灸の方と話をしていると、理学療法の世界に興味を持たれてる方って大勢いらっしゃいます。
一方で、僕ら理学療法士が鍼灸の理解が進まない理由の一つが、「知識背景が違う=共通言語でない」ということだと思います。
東洋医学と西洋医学。ツボとか言われても?ってなるPTは多いでしょうからね。
そこで今回は、各業界で近年重要視されている「運動器エコー」を使って、鍼灸と理学療法それぞれの世界を覗いてみることにしました。
具体的には、鍼灸や理学療法の場面を運動器エコーを使って解説するような形になっています。
鍼灸のアプローチを、運動器エコーでリアルタイムで覗いてみると、ものすごく興奮しますw
で、今回はこの記事を書くに当たって、「理学療法士で運動器エコーにも鍼灸にも精通している」人材にお願いをしました。
以前にも登場した、岡くんです。
【整形エコーTips9】
腱の見え方はどうなの?
となると、こんな風に見えます!
靭帯よりも太くごつい様な所見が得られます!
また異常所見も得やすく、2枚目の様に肥厚したり、移行部に炎症所見があったりするので、運動器を見てるスタッフはマストだと思います! pic.twitter.com/eC8rZmqgcR— 岡 賢佑@EBM鍼灸理学トレーナー (@TrainerWao) August 10, 2019
彼とは普段から関わりが厚く、先日は一緒にライブ配信もしたので、知ってる方も多いかと思います。
軽く紹介しておくと、彼は野球の分野で活動されているPTで、自腹で運動器エコーを購入し日々の現場活動で使い倒しており、今はスポーツの仕事をやりながら鍼灸を学んでいるという立場になります。
マイエコーで自由に研究できるので、PT鍼灸それぞれの側面でエコーを絡めることができ、その知見は非常に膨大です。
実際、今回のnote執筆も、彼が理学療法士的な立場から鍼灸のアプローチを語ってくれてるので、非常に理解しやすいです。
僕も彼の知見から学ぶことはとても多いですから、スポーツ分野に限らず全ての理学療法士や鍼灸師の方にとって、勉強になるはずです。
それでは、はじめましょう!
■はじめに
ども!EBM@鍼灸理学療法士の岡賢佑です!
今回のテーマの流れとしては、
・理学療法士サイドから見る「鍼灸ってなんぞ?」
・鍼灸師サイドから見る「理学療法ってなんぞ?」
・両サイドからみる「エコーってなんぞ?それぞれメリットは?」
って感じになってます。
多分、この3つを使ってる人間はこの世界に結構少ないんじゃないかなあという事で、一つの意見として頭に入れていただけたら幸せです。
この話から、
「鍼灸なんて治りませんよ!」っていう病院の理学療法士、
「リハビリはなんちゃってですよ!」っていう地域の鍼灸師、
特に!!!
他職種連携、共通認識に生かしてくれたなら、こんなにも嬉しい事はありません!
では、始めていきましょう!
■理学療法ってなに?
理学療法とは
「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう」
と定義されています。日本の国家資格です。
(理学療法士及び作業療法士法より)
要するに、怪我をしてからの回復、治療手段の一つが理学療法という事で、リハビリ=理学療法ではありません。
なので理学療法士に少しでも、「鍼灸の良さ」を広めることができたなら、とても有意味だと思います。
患者さん、クライアント、選手が報われる世界になったなら、こんなにも嬉しいことはないので、次に鍼灸の「いろは」を説明していきたいと思います。
■鍼灸ってなに?
鍼灸とは
「はり」や「きゅう」を使って、健康回復を助けたり治療を行う
と広く一般的に言われています。これも国家資格です。
(引用:楽天リサーチ、ジョブメドレーより)
先ほどの「理学療法」は西洋医学にもとづく治療方法ですが、
鍼灸師が行っているのは基本的に東洋医学です。(つぼ、経絡とか)
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(通称:あはき法)では、鍼灸師という職業はありません。
「はり(鍼)師」と「きゅう(灸)師」で「しんきゅう師(鍼灸師)」と便宜上呼ばれてるだけですので、この二つの資格は、厚生労働省国家試験も当日別々に受験する事になります。
やはり「西洋医学」と「東洋医学」は根本的に全く違うものでして、
西洋医学の「心臓」は東洋医学の「心」ではないんですね。
逆に東洋医学の「肝」は西洋医学の「肝臓」でもありません。
だから、西洋の人間としたらここがきつい…笑
今、なんの話してんの?ってなります…笑
でも、意外に東洋医学側の人間は西洋医学の受け入れは良いんです。
その理由は…
「理論、エビデンスがあるので説明があるから理解できる」なんですね!
それが「西洋医学の強み」になります。
それとは逆に、東洋医学の「歴史」は非常に強みです。
西洋医学が進む遥か前から進化、信仰されているので、
西洋医学からすれば、「サンプル数」が圧倒的に違うのです。
東洋の人体実験論では、
・デンキウナギを人のつぼに当てたり、
・毒草を入れてみたり、
・赤の他人に刃物をいけるところまでグサグサ刺したり
…等々
そんな実験してたとの説もあるぐらい、倫理的にやばいことも通っての進化です。
そんな進化を得て、なんとか結果を残そうと近現代まで生き残ってきた学問ですので、「結果と効果」へのコミットはとても凄い執着と結果があるわけです。
そう思うと西洋医学は「人々の戦争」により前進、進化してきた医学ですので、見方は変われど、どちらの医学も「なんとか人を元気に健康にしたい」というゴールは一緒な訳です。
西洋医学は「平均寿命」の底上げに多大な影響を与えてくれていますし、
東洋医学は「健康寿命」の底上げに多大な影響を与えてくれています。
なので、双方の良い所を取っちゃえば、患者さん、クライアント、選手からすれば「困っている自分の事をなんとかしてくれる人」になれるかな〜と思っています。
そんな鍼灸の中身は?
鍼灸は主に「鍼(はり)」と「灸(きゅう)」を使います。
鍼はこんなやつ↓
灸はこんなやつ↓
鍼には色々種類があって
「短いやつ」「太いやつ」「長いやつ」「細いやつ」
本当にたくさんありますし、
素材なんかも「金」「銀」「ステンレス」など様々です。
(一応、どの種類を使うかで効果の出方なんかも違うとされています)
お灸は主によもぎが使われているのですが、
「みそ」「生姜」「にんにく」、最近では「アロマ」なんかも入っているやつがあります。(種類が本当に多いです)
そんな道具たちを使いながら、体外〜体内へアプローチすることで、
効果を出して行きます。
そんな「鍼」と「お灸」ですが、効果効能も様々で、
・「膝痛」や「肩痛」といった、ありきたりなもの
・「偏頭痛」や「血圧を下げる」など、ちょっと西洋医学でアプローチしにくいところ
・「二日酔い」や「冷え性」などの、もう西洋では説明つかない所
・「お腹の逆子赤ちゃんを通常に戻す」、「夜泣きの赤ちゃんを制御する」などの事も本当に色々な報告、事例があります。
↑これは手首の所なのですが、こんな感じに「ツボ」は散らかっています。
※他にもっとツボを知りたい方は、こちらに医療AIを自分作りましたので使ってみてください。効果効能や色々説明してくれます↓
そんな東洋技術の作用機序としては、簡単に言うと
「迷走神経反射等の自律神経反射の利用」
「組織損傷を利用したリモデリング促進」
「血管透過性、血液浸潤の亢進による組織活性化」
等、西洋的な観点で説明される事が多いです。
東洋医学的な意見としては、簡単に述べると
「経穴(ツボ)は経脈(体を縦に走る脈)と絡脈(体を横に走る脈)があって、それを刺激すると、繋がっているツボ、それに属する臓腑(いわゆる臓器や神経など)に影響を及ぼす」
みたいな感じに捉えられています。
ん〜、難しい。さすが、歴史!東洋医学!
でも、実体験だったり、凄腕の先生ってやはりどの世界にもいるもんで、
その効果たるや、「まじ半端ねえ」ですよ…笑
具体例をあげると、
・「捻挫、打撲の血腫が鍼灸やった直後、明らか減ってる」
(その後しっかり病院で処置してもらう訳ですが)
・「肩が痛くて上がらなかった人が、数秒で痛みなく最大挙上」
・「便秘気味の赤ちゃんに少しツボを刺激すると、もう快便」
だったり、もはやその場にいるものとして、効果を疑う余地がありません
ただ、東洋側にも「仮説」はありますが、全て「推論」なので、誰も理解できないんです。評価は完全な術者の主観です。
西洋医学みたいに評価、検査があまりきちんとしていません。
〇〇なら〇〇のツボみたいなテンプレートがある訳です。
まぁ少なからず、検者間信頼性(再現性)はないですよね!笑
そこの弱い所も、最近、鍼灸業界ではシステマチックに行こうと言う流れがあるので、研究みたいなものはが少しずつ世に出てきています。
出てきてはいるんですが…まあ…すごいですよ。多分わかりません。笑
(興味ある方はぜひ色々と調べてみてください。笑)
(調べるなら国内がおすすめ。笑)
(特にシングルケースレベルで。笑)
って言う所とかがあるので、今回その双方の弱み
西洋=手の出せない範囲がある。しかし、身体の原理は知っている
東洋=手の出せない範囲がない。しかし、再現性と論理性にかける
を同時に補うのが、自分の中で「整形エコー」と言う位置づけです。
しかもエコーを使うメリットの中には「リスク管理」付なので、色々と得るメリットも多いのです。
では、次に説明したいと思います。
■整形エコーを用いた「鍼灸」と「理学療法」の挑戦
初めに理学療法側からみたエコーを使うと…
こんな風に、エコーを使えば確認しながら介入できる様になります。
要するに、「どの組織をどれぐらい触れば、動かせば、どう言う風に動く」と言うのが目で追えます。
また疾患の経過観察も追えますので、患者さんに状態の説明などにも使う事ができます。
※エコー自体がわからないと言う方はこちらの記事を先に読まれることをおすすめします。
【僕が思う理学療法士】
理学療法士はこういう理論がとっても大好き。ずーっと机の上で勉強してる。
理学療法士は動作や運動に的を絞ってる職なのに、なぜか自分が運動できない人が本当にたくさんいる。やれよ!とりあえずやれ!
自分が動けてないのに、クライアント正しく動かせる訳ねぇだろ! pic.twitter.com/Qj63aCiWn8— 岡 賢佑@EBM鍼灸理学トレーナー (@TrainerWao) June 25, 2019
まぁ実を言うと上にある様に、理学療法士はなぜか実技よりも机の上で勉強する事が多く、こんな理論の方が本当に「大好き」なので、技術のスキルアップの為にもエコーを使って欲しい所です。
どんどん「知行合一」して欲しいですね!
【整形エコーTips12】
『炎症による腫れ』というのは極めて、機能的に欠落します。
画像の様に、浮腫で組織をここまで下方に押されると、軟部組織は動く幅は閉ざされる為、組織間の滑走不全を起こします。
すなわち『拘縮』に進んでしまうので、エコーで可視化してしっかり認識しなければなりません! pic.twitter.com/wcYtXtcgIm— 岡 賢佑@EBM鍼灸理学トレーナー (@TrainerWao) August 12, 2019
では、鍼灸側からみた「エコー」はどうでしょうか?
ではいきなりですが、こちらの動画をご覧ください!
どうですか?リスク管理もできて、どこに鍼をさしているのかもわかるかと思います。
では…もっと深く説明していくと、
先ほどにもあった、この画像ですが、
「陽谷」のツボを例に出して、考えていきましょう!
陽谷の場所としては、
「手関節の後面側で、尺骨茎状突起下の陥凹で尺側手根伸筋腱の内側」
となるのですが、場所がめちゃくちゃ曖昧なんですよね。
それに加えて、どれぐらいの「深さ」かも教科書上では書かれていないことが多いです。(これにも理由があるのですが…)
そんな時は実際その「陽谷」の場所をエコーとってみましょう!
こんな感じになります。
西洋医学でいうと、TFCC(Triangular Fibro Cartilage Complex、三角線維軟骨複合体)の場所になります。
ここで着目すべき所は、エコーで「赤みがかっている」所は急性炎症の真っ只中なので、あまり鍼をすべきではありません。
この状態では炎症とは違う他の所を狙いにいくのがベスト…ですよね!
ではどうするか…?
例えば…オレンジ色の線を鍼と見立てて…
こういう風に避けながら刺してみようかな?とか…
逆向きに刺してみようかな?とか…
手根骨側の方を刺してみようかな?
…等々、様々な主義を想像し、実際にエコーガイド下で、安全で確実に処置をすることが可能となります。
先ほどにもあった様に、エコーでは「鍼の位置」を可視化できるので、もしツボを使って効果があるとしたら、同業者への申し送りも可能ですよね!
「このツボをこんな風に、この深さで刺したら効果あったよ!」みたいな。
また、他職種に関しても、例えばDrへ「〇〇の深さでこの辺りを鍼してみたら、こんな効果ありましたので、局所麻酔かハイドロリリースお願いします」と申し送りすることも可能です。
このデータの積み重ねが東洋医学の弱い所である、貴重な「客観的データ」となりますので、エビデンスの方も積み上がっていくことと思います。
【アキレス腱痛に対するエクササイズと鍼灸の効果検討】
鍼と運動療法を併用した方が治癒の早い、もしくは効果的であるとした検討がちらほらと出ています。
理学療法士による運動療法。
鍼灸師による疼痛治療。
近い未来、理学療法士と鍼灸の融合は世界スタンダードになる日も近いかもしれない。 pic.twitter.com/BbLbMLIKOZ— 岡 賢佑@EBM鍼灸理学トレーナー (@TrainerWao) June 5, 2019
こんな風に他職種が「連携・融合」することで、治療結果もどんどん変化すると嬉しいですよね!
次に、リスク管理の点からは、鍼による「気胸」のリスクがあります。
ちなみに、様々な鍼のリスク報告例があるのですが、前胸部、肩背部、側胸部の深刺によって胸膜、肺まで穿孔し、空気が進入していくケースがあります。それが鍼によって多い気胸のケースです。
(鍼治療と両側性気胸、山下 仁, 形井 秀一、2004)
(鍼治療により発生した気胸、古東司朗、中本和夫、1994)
そんな気胸のエコー写真です↓
こんな場合、
↑こんな風に、胸膜の距離さえエコーでつかめれば、心配なく鍼をすることができます。(ちなみにこれでも責めすぎです、もっと浅くても良いです)
※おまけに、胸水のエコー写真もどうぞ↓(違いわかりますか?)
昨今の情勢から考えると、この様な問題は、すぐ訴訟問題になる傾向があるので、これを防げるのはとてもメリットですよね!
そんな中、この様にエコーを見ながら鍼をさせるので、気胸になる手前で鍼を止める事ができます。
患者さん、クライアント、選手にとってもハッピーですよね!
また、鍼灸を使うにあたって、どれほど改善したかって言うのもほぼ「主観」だと思うんですね。
使ってもVAS(Visual Analog Scale)かNRS(Numerical Rating Scale)ぐらいでしょうか?
研究が進むと、理学療法のこんな感じで、鍼灸も予後説明なんかもできたら良いのになあと思ったりしています。鍼灸めちゃくちゃ結果出せるので。本当に勿体無い。
最近では、こんな鍼灸に対するエビデンスも出てきています!
【慢性疼痛に鍼は効果的か?2018】
鍼灸に携わる方は是非知っててください!
簡単にまとめると、
・世界中の1757本から39本の研究結果を統合
・鍼群はプラセボより効果的
・1年後約15%の痛みの改善あり
・今後の疼痛治療の1つとして考察される↓更なる考察書いてきます↓https://t.co/PtFLuobUWn pic.twitter.com/ZPNnDdo0b3
— 岡 賢佑@EBM鍼灸理学トレーナー (@TrainerWao) May 10, 2019
…色々とありましたが、ここで足りないのは、何かわかりますか?
それは、「対個人の説明力」なんです。
要するに西洋医学で言う「IC(インフォームドコンセント)」です。
「対個人の説明力」です。
「対個人の治療力」ではありません。
例えば、膝が曲がらない人がいて、膝の前をエコーで取ってみる。
そうすれば、動いていない組織がわかる。
それに対して、なんらかの鍼灸を使う。
エコーをもう一度使ってみる。良くなっている。
そういう風に前後比較で説明して、症状の経過を追う。
そうすれば、患者さんも安心、納得してくれる可能性も上がる事と思います。
そこから、ここの繋がりがるこんな「つぼ」やあんな「つぼ」があるんで、是非やっていきましょう!と。
ここまでしてくれたら、ぶっちゃけ「再来院率」上がりますよ?笑
僕なら、この人に信頼して体預けて良いと思います。
そうやって「対個人の説明力」が蓄積されると、多大なデータになっていくので、エコーを使って東洋医学ベースの「西洋医学」風な説明もできる様になるのではないかと思っています。
■最後に
学びなき自由は危険である。自由なき学びは常に無駄である。
(ジョン F ケネディー)
僕たちは一人では何もできません。
ですが、必ず、チームを組めば、何かを成し遂げれるはずです。
そう「西洋医学」と「東洋医学」の足の突っ込んだ人間がいたなと言うことを頭の片隅にでもあれば本望です!
ご静聴ありがとうございました!
では、またの機会に!グッバイ!