こんにちは、西川です。
今回のnoteは、投球障害に対して、運動器エコーを併用しつつ評価とアプローチを行ったケースを紹介します。
スポーツの中でも、オーバーヘッド動作に関わる障害やパフォーマンス低下はよく見られ、その中でも最も研究され、かつ他競技でも参考にしやすいのが投球動作です。
一方で、投球動作などのスポーツ障害は、まだまだセラピスト自身の主観で評価やリハビリが行われるため、再現性はイマイチだな…と思うこともしばしばです。
そこで今回は、投球障害という汎用性の高いテーマに対して、運動器エコーで超客観的な評価と介入をしたケースを見ていただくことで、みなさんの日々の臨床に役立ててもらえればと思います。
ちなみに、今回のnoteは、僕のトレーナー仲間である岡くん(@TrainerWao )が書いてくれたものです。
彼は独立して主に野球選手のサポートをしているPTなのですが、彼は自前で運動器エコーを購入し、日々Myエコーを駆使しながら野球選手のサポートをしています。
間違いなく、投球障害およびエコーに関してはその道のプロであり、実際に僕自身も今回のnoteを読んで、非常に勉強になりました。
運動器エコーは、僕たち理学療法士にとって強い見方であり、近年話題ですが、主にコストパフォーマンスの問題から、臨床現場ではまだ導入されていないか、されていても自由に使えないケースが多いかと思います。
それだけに知見が少なく、そういう意味でも今回のnoteはとても貴重なケースです。
スポーツに関わるPTの方はこの機会にぜひ読んでみてください!!
それでは、はじめていきましょう。
■はじめに
どもです!EBM@鍼灸理学療法士の岡です!
まず、このテーマに触れる前に、、、
履正社高校!令和元年!夏の甲子園初優勝おめでとう!
星稜の奥川くんもよく投げましたが!惜しい試合でしたね!
昨今、巷に呼ばれる投球障害「肩」
実は野球に限った話でないのはご存知でしたでしょうか?
今回は野球選手やオーバーヘッド競技の選手の経験を通じながらの症例を投球障害「肩」としてフォーカスしながら、もちろんエビデンスを用いながら、エコーなんかも使いながら説明できればな〜と思います。
■投球障害って?投球肩障害って?
【投球障害とは】
「投球や投球様動作の繰返しによって身体に痛みが生じ、投球動作、競技動作が困難な状態」(江戸川病院スポーツ整形より)
【投球障害肩とは】
「投球動作、競技動作におけるスムーズな運動連鎖の破綻により肩甲上腕関節に過剰な負担がかかった状態」(スポーツ外傷・障害の基礎知識/日本体育協会.2012)
ということを指しています。
続いて…具体的に投球肩障害中身としては
(Shoulder Pain in the Overhead Throwing Athlete/Shane T. Seroyer et al ,sports Health.2009)
こんなにもあります。笑
というか、まだあります。笑
簡単に説明しますと…大きく3つです!
⑴機能的損傷による問題
筋肉だったり、靭帯だったりする投球に関する「機能」に問題があるパターン
⑵構造的損傷による問題
骨だったり、身体そのものを構成してくれている「構造」「基盤」に問題があるパターン
⑶神経血管性の問題
(1)(2)を「つなぐ」存在である組織に問題があるパターン
に分かれてくるわけです。
分かりにくい方はもう少し噛み砕くと…
家の建物=(1)機能的損傷による問題
家の基礎=(2)構造的損傷による問題
家の排水管や電気配線=(3)神経血管性の問題
という様な感じです。
これを理解していないと、評価、治療に置いてめちゃくちゃ難渋するんです!
理由は簡単で、家のどこに問題があるか「分からない」のに、家の工事,修繕はしませんよね?
家が水浸しになったとして…
屋根?基礎、床下の隙間から?排水管から?
……選手も同じです!
適材適所に治し所はあるんです。
ただその問題が「複雑」に「混在化」しているから、『肩には体幹トレーニングでしょ!』とか『肩には肩甲骨だよ!』みたいな、表面上の討論が巷にはびこるわけです。
しっかり総論として選手、クライアントにとっての「肩障害」を理解してあげましょう!!
ここで伝えたいことは…
投球障害肩=野球に限った話だけではないということは、お分かりいただけたでしょうか?( ´ ▽ ` )
今回は分かりやすく行きたいので「野球選手」の「投球障害肩」をフォーカスしていきます!
では、実際に症例に参りましょう!
■投球障害の症例
どうですか?
いかにもでしょ?
では、あえてお聞きしますが、
なぜ、「この選手は投球障害肩持ってそうだな〜」って思いましたか?
(Reported mechanisms of shoulder injury during the baseball throw/
Craig A. Wassinger, Joseph B. Myers Physical Therapy Reviews 2011 VOL. 16)
おそらく勘の良い方はこの図を思い返したのではないでしょうか?
では、実際のこの選手のレントゲン写真です!
疾患名は「リトルリーガーズショルダー」(「上腕骨近位端骨端線離開症」)でした!
ちなみにエコー所見では、
こんな感じで映ります。
写真の左側が骨端線離開してますよね!
ということで、左側が患側で右が健側です。
※エコー所見が全く分からない人に向けてはこんな記事書いてますので、まず、こちらを読むことをおすすめします!
診断のglade的には一番下になり、保存療法適応となります。
いざ、僕たちの見せ場ですね〜〜!
では、現状の動作面を見ていきましょう!
↑なんか、この選手のフォームってこんな感じしませんか?(前額面の動画なくてすみません涙)
・テイクバックのフェーズ(ボールを投球する前の段階)が短いな〜
・肘下がってんな〜
・なんか腕のふりが弱いな〜
と感じたと思います。
では、なぜこの選手は上腕骨の骨端線が離開してしまう投げ方をしてしまい、投球障害肩にならなければならなかったのかを評価していきましょう!
■投球障害肩(評価編)
では、簡単にですが評価を記載していきます
こんな感じでした!
・叩打痛、軸圧痛:陰性
・Load Test :陰性
・Neer Test:陰性
・Shift Test :陰性
・Hawkins Test:陽性
・Combined Abduction Test:Lt陽性
・Horizontal Flexion Test:Lt陽性
・Triceps shortening Test:Lt陽性
・肩水平内外転test:Lt側のみ水平内転時上方へ、水平外転時下方へ逸脱あり
意味が分からない方は、この通りググって見てください。簡単に出てきます。
※水平内外転testは座位、立位で水平外内転させ上腕骨の水平軸の軌道エラーを評価するものです。
この評価によりこの症例では「関節窩の向き」が「下方」へ向いていることが分かります。(要するに肩甲骨下方回旋位)
※Triceps shortening Testは下の写真です。上腕三頭筋の短縮テストです!
肩を完全に挙上したあと、肘を曲げると完全挙上した肩が伸展方向へと動揺すれば陽性です
「リトルリーガーズショルダー」(上腕骨近位端骨端線離開症)ってなると、経験の多い方は分かると思うんですが、肩甲上腕関節の前面〜外側面に疼痛を訴えるケースが多いですよね!
しかし、この選手は肩後面に疼痛を訴えがあるんです
ということで、肩甲骨を固定しつつ、肩後〜外側面の評価をします。
こうすることで、肩甲骨〜上腕骨の間の組織を評価することができます。
・Combined Abduction Test:
・Horizontal Flexion Test:
上記の検査は陽性、陰性の基準について散見されていますが、
・Combined Abduction Test→健側、患側左右差がないかどうか
・Horizontal Flexion Test→対側の床面に検査側の手がつくかどうか
が多い気がします!(色々出てるので、またぜひ探してみてください!)
これらの評価結果より分かることは…
・疼痛の原因として骨性の問題は少ない
・HFT,CAT,HERT testより肩甲骨〜上腕骨間の問題が大きい
・徒手誘導検査にてGHjtの運動では鎖骨性の問題より肩甲骨性の問題がある。
・Load&Shift testより関節窩〜上腕骨頭での問題は少ない
・水平内外転Testより関節窩は下方へ向いている(左右差)
・1st内旋時の等尺性収縮よりも2nd内外旋の等尺性収縮にて疼痛増悪。
加えて2nd外旋の可動域制限顕著。+3rd posi は更に現象(↑)
=痛みの原因は肩関節後~外側面の軟部組織の問題
という情報統合を行いました!
では、次は少し噛み砕きながら解説していきます
■今回の投球障害肩の解釈
今回の投球動作的には
・テイクバック(投球前の動作が異様に短い)
・投球する瞬間肘が下がっている
・腕の振りが弱い
等、先に問題が上がっていたと思います。
では、ここから解釈していきましょう!
まず、何と言ってもこの現象です↓
肩最大挙上で肘が曲がらないんです!!
この結果はTriceps shortening Testで明らかになってます。
では、上腕三頭筋が問題となると、どうなるか、、
それは肩甲骨の挙上〜後傾に加え上方回旋が行われにくくなり、必然的に、肩甲上腕関節のインピンジメントを誘発してしまいます。
(上腕三頭筋長頭の付着部は肩甲骨関節窩の下方だからです)
その結果をエコーでみてみましょう!
こんな風に、「後方のインピンジメント」を併発していたので、後方の疼痛が発生していたのですね…
実際小円筋にはこんな例があります↓
・上部筋束と下部筋束の境目付近に上腕骨の骨端線が位置している
・小円筋の上部筋束と下部筋束の硬さの違いが、骨端線を離開させる一因として示唆されている
(福吉正樹・スポーツの肩・肘関節機能障害における関節機能解剖学的 病態評価と運動療法の展開より)
となると、やはり、この症例では小円筋の柔軟性、滑走性改善と上腕三頭筋の短縮の改善は「痛み」に対しては、とりあえずマストになりそうです。
結果、こんな感じで改善できました。
介入例(一部)↓
その後、
介入していくと、可動域は改善し、肩の痛みは消失していきました。
次に、肩の痛みはなくなりましたので、根本的な原因を解決していきます
なんで、肩に負担がかかってきたか?
・片足立位すると、支持脚が常に膝屈曲位の股関節屈曲位
→要するに骨盤が前傾することなく常に後傾位
が大きな問題と思っています。
なぜか?
ここを詳しく評価してくと、この選手実はカーフレイズ(踵上げ)が片足ではできないんですね。特に支持脚側です。
左が介入前、右が介入後です。膝の伸び方が違う様に見えるかなと思います。
前足部荷重ができず、筋力もないものなので、下腿後面の張力に依存しようとします。
そうすると、
膝を曲げて(下腿前傾させて)動作を行う結果、
膝が曲がり、でも後方重心なので骨盤後傾位を呈していったと考えられます。
この重要性を流れで説明すると、
テイクバック、投球前の動作が異様に短い
↓
↓
上記の様に片足立位に問題あり
↓
↓
ボールに力を伝える準備、開始姿勢が取れないので、その勢いを補填する為に、位置エネルギーを用いるよりも運動エネルギーで動作エネルギーを確保させようとしていた(加速をつける為に下半身のタメを無視して速度を重視した)
↓
↓
そのまま投球動作に入っていく…
↓
↓
骨盤が前傾する間もなく、下腿は前傾+後方重心のままリリースを迎えるので、骨盤後傾位が続く
↓
↓
骨盤後傾位が続くので、結果的に腰椎骨盤リズムを「同側パターン」のみを利用するので、腰椎屈曲位〜胸椎屈曲位になる
↓
↓
胸郭を十分に拡張できないので、肩甲骨の動きを抑制してしまい、結果肩甲上腕リズムの破綻を導く=肩甲上腕関節がうまく働いてこない
↓
↓
投球する瞬間肘が下がる
↓
↓
結果、骨盤も動いていないのでステップ側の股関節内旋運動も行えない
↓
↓
ステップ脚からの床反力を十分に得られない
↓
↓
腕の振りが弱い
↓
↓
そんな中でも腕を強く振りたい
↓
↓
肩関節を引く力(=上腕三頭筋)でボールリリースから力を無理に引き出し、
その代償として止める力(=小円筋)に多大なストレスを与えた(これは当然この選手はインピンジメントしながらです)
↓
↓
結果、、肩痛める。。
という風に流れを作りました。
この仮説順に介入していくと、疼痛が増加することなく競技復帰へと促すことができました。
↓左が介入前、右が介入後の肘下がりの状態↓
まとめ
いかがでしたでしょうか?
診断名は「リトルリーガーズショルダー」(「上腕骨近位端骨端線離開症」)でしたが、診断名とは違う所に結果としては問題が隠されている症例でした。
この他にも、色々な着眼点があるかと思いますので、ぜひ色々と視野を広げで、見てみてください!
今回の場合なんて裏の主役が「カーフレイズ」でしたし。笑
色々考えさせられますね!
現場復帰のツールもいくつかご紹介する機会があれば、また紹介させていただきますね!
では、グッバイっす!