※2018.4.15 リライトしました。
シリーズ7話目のテーマは、

成長期に女性ホルモンの影響で心身に変化が起こり、不調に陥った(そこから改善した)事例

前回のクラムジーと同じくらいの時期に訪れ、
様々な形で不調が現れ、場合によっては
競技に関わる骨折を招くこともある
女性ホルモンの過不足について。
長くなるので、先に実際にある事例と
その対策を簡単に書きます。
 
  • 女性ホルモンの増加(体の女性化)によるパフォーマンス低下
  • 断続的な心身の不調(PMS、PMDD)
  • 成長期の後半ぐらいから、腰や膝に次々とやってくる疲労骨折
 
 
 

不調①:女性ホルモンの増加(女性化)によるパフォーマンス低下

女子選手の体の変化は、男子のそれと比べ
とても複雑です。
これまでPHVによって体にいろんな変化が
起こることは書いたと思いますが、
ちょうどこのPHVが終わった頃、イメージ的には
 
「そろそろ成長期終わりかけかな…」
ぐらいになると、多くの女子は女性ホルモンが
グッと上昇します。
体が、女子から女性へと変わる準備を始めるのです。
 
スクリーンショット 2017-12-08 14.17.48.png
上のグラフがわかりやすいです。
緑の線は「成長ー速度曲線」のグラフで、
ピンクの線は女性ホルモンの増加を表します。
(横軸は年齢です)
ちょうど黄色の四角で囲まれている部分は
女子選手のPHVが落ち着く時期で、
ちょうどこの頃から女性ホルモンが
グググーーっと増えてきてますね。
年齢にすると12~15歳です。
 
そしてこの時期、女性ホルモンが活発になると
体つきがめっちゃ変わります。
 
 
女性の体に変化していくのですから、当然
  • 体重が増える
  • 体脂肪が増える
これらは避けられません。
そしてこの時期、多くの女子選手を見ていて
感じるであろう「動きが重たい…」というのも、
これが一つ要因になっているのでしょう。
 
 
車に例えて言うと、動かすためのエンジンは
そのままで、車体だけ重くなっている
わけですから、そりゃ動きは重くなります。
加えて体重が大幅に変わると、
前のクラムジーの記事で挙げたように
体の変化に感覚が追いつかなくなっていきます。
これが、多くの女子選手にやって来る
パフォーマンス低下の現象です。
 
 
ただし現場で見ていると、どうやらパフォーマンス
低下の度合いには個人差があるようで、
 
  • もともと痩せ型で身軽(ピョンピョン動き回る)
  • PHVやその後に体型が激変した
これらのケースはパフォーマンスへの影響も大きく
反対に、
 
  • もともと「ふくよか」
  • PHVやその後も、あんまり体型が変わっていない(もしくはPHVと呼べる時期がない)
これらのケースは、比較的パフォーマンスの影響は
少ないように感じます。
 
 
これも、クラムジーと同じく体の変化が
大きいほど症状が強く出るのでしょう。
人によっては別人になりますからね。。
 
 
 
さて、この女性化によるパフォーマンス低下は
ある意味生理現象のようなものですが、
対策はあるのでしょうか?
体重や体脂肪が増えすぎると良くないから、
それなら体重が増えないようにすればいいんじゃ?
と思うかもしれませんが、
個人的にはオススメできないです。
 
 
 

対策:体重は増えすぎても減らしすぎてもダメ?

 
スクリーンショット 2017-12-17 12.36.49.png
 
次で詳しく書きますが、この時期の女子選手が
体重(体脂肪)を減らしすぎると、
無月経による体調不良やそれに伴う疲労骨折を
引き起こすことになります
 
長距離の陸上界では、ひと昔まさにこれが
問題となっていたそうです。
「無月経でないと走れない!」は業界の常識で、
しかしそれによって疲労骨折が絶えなかったとか。
 
 
これは個人的な考えですが、
成長期に女性の体へと変化するのは当たり前で
自然なことだと思っています。
それを強引に妨げると
女性ホルモンが出なくなったりするわけで。
 
 
ただし、だからって太り過ぎは良くないです。
あからさまにパフォーマンスが落ちますから。
なので対策というかベターな対応は、
BMIの正常値範囲を目安に調整するのがいいのではないでしょうか。
その上で、ある程度動きが重くなってしまうのは
暖かい目で見守ってほしいです。
本人は決して、手を抜いている訳ではないですし、
クラムジー同様、体の変化になれると
パフォーマンスが戻る時が必ず来ます。
 
 
※余談ですが、女子選手は結構
「ストレスたまると太るんです」って言いますし、
ストレスを溜めすぎない環境作りも
必要かもしれません。
ただでさえ、思春期は色々ありますからね。
正解はありませんが、難しいですね。
 
BMIの早見表は以下から↓
20160319032403.jpg
 
 

不調②:断続的な心身の不良(PMS、PMDD)

 
PMS(月経前症候群)という言葉を
ご存知でしょうか?
選手のお母さんや女性指導者の方は
ご存知の方も多いと思いますが、
男性で知っている人は少ないのでは
ないでしょうか。
 
これは黄体ホルモン(女性ホルモンの一つ)の
影響で定期的にやってくる症状で、
  • 腹痛
  • 頭痛、めまい
  • 腰痛
  • 過剰な眠気
  • 動悸
といった身体症状から、
  • 強い不安
  • 起こりやすい
  • 集中力の低下
  • 疲れやすい
  • パニック
  • 無気力
といった精神的な症状も多くあります。
 
月経前症候群と言うくらいなので、
文字通り黄体ホルモンの分泌が増える
月経前7~10日ぐらいに
こうした症状が強くなる
と教科書的には言われています。
 
 
が、現場で見ている限り
そもそも生理不順な選手が多いですし、
決まった時期に症状が強くなるというよりは
常にいくつかの不調はあって、
それが軽い時もあれば強い時もある、その時期や
程度に共通点はあんまりない。
そんなケースが多いように感じます
 
 
 
特に男性スタッフや
周りの方に知ってもらいたいのは、これは
ホルモンバランスの不安定によって起こる
「症状」ということです。
 
 
なんとなく、「女子は情緒不安定やわ〜」とか
「最近イライラするようになったな〜」とか
気分的なものではなく、内分泌の構造上
起こっていることなんです。
 
 
ちなみに、ひどい場合はPMDD
(月経前不快気分障害)と言って、
  • 自己卑下
  • 強い不安
  • 感情が制御できなくなる
  • 緊張感
  • 絶望感
など、かなり重度になるケースもあります。
以下は、臨床スポーツ医学(2017-7 Vol34)
からPMDDについての抜粋です。
 
“実はPMDDはPMDよりも深刻で、気分の変化が著しく、日常生活が困難な状態に陥ってしまう。〜中略〜 特に日本人女性は我慢強い気質もあり、この症状を理解しているアスリートやスタッフがまだまだ少ないように感じる”
 
 
ここまでくると、競技どころではないですね。
しかし、ここまで来たケースも今まで
わずかながら経験したことがあります。
大変ですし特効薬はないですが、
ベターと言われる対応策を挙げたいと思います。
 
 
 

対策:モニタリングと専門機関での治療、そして周りの理解

 
スクリーンショット 2017-12-17 13.10.37.png
 
女性は手帳など使って、
月経の管理をしていると思いますし、
男の僕に言われなくてもわかってると思いますが(笑)
やはり、日々のモニタリングは
大事だと思います。
 
日々の記録をつけることで自分のコンディションに
敏感になっていきますし、ある程度
コントロールもできるようになるようです。
 
 
そして今はいい時代です。
スマホもアプリで簡単に管理できるサービスも
出て来ています。
無料なのはいくつかあり、どれも一長一短ですが
ルナルナというアプリは中々いいと聞きます。
 
 
こうしたモニタリングを日々行って、なお
PMSやPMDDの症状が強く出るようであれば
女性アスリート外来を専門にしている
婦人科への受診をお勧めします。
ホルモンバランスを整えるように対応してくれるはずです。
※もしアテがなくて探している場合、
地域によりますが僕のつながりのある婦人科を
紹介できるかもしれませんので、
テニスフィジオHPの「お問い合わせ」から
メッセージをください。
そして、こうした不調で何より大切なのが
周りの理解です。
特にテニス業界での女性アスリートの周りは
男性が多いので、モニタリングしたことを共有など
結構難しいことも多いです。
選手との信頼関係はもちろん必要ですし、
スタッフはこうした医科学的な知識を理解しておく必要があります。
理由なく調子悪いなんて、あるはずないですからね。
ちなみに前にも書きましたが、PHVの来る時期は人それぞれです。
10歳でPHVを迎える場合や15歳より後までこない場合もあります。
したがって、女性ホルモンが増加する時期、
またそれによって心身に変化が出て来る時期も
人によって変わります
 
こうした意味でも、発育やPHVは一人一人見極めないといけないです。

不調③:成長期の女子選手を襲う疲労骨折(靭帯損傷も含む)

(少し医科学的な内容になるので難しいかもしれません。すみません)
スクリーンショット 2017-12-17 13.29.22.png
↑これはジュニア女子の腰椎の疲労骨折です。
興味深いデータがあるので見てください。
 
スクリーンショット 2017-12-08 14.15.47.png
↑これは年齢別の疲労骨折の割合を示しています。
ピークが16歳で、その1年前後がかなり多いですね。
ちょうど、高校の進路を決める時期か、
高校に入ってさあこれから!という時期と重なります。
 
これから!という時期に疲労骨折で長期離脱…
なんて避けたいですよね。
ですが、なぜこの時期に疲労骨折がこんなに
集中しているのでしょう?
実はこれにも、女性ホルモンが大きく
関わっています
 
スクリーンショット 2017-12-08 14.17.48.png
あえてもう一度、女性ホルモンが増える時期の
グラフを挙げてみました。
12歳〜16歳にかけて、女性ホルモンがめっちゃ
増えています。
 
重要なことは、この時期は女性ホルモンによって
骨の強度が強くなるのです
 
 
「骨粗鬆症」というと、高齢者の病気と
思われがちですが、高齢者の場合
閉経によって女性ホルモンが出なくなることで
骨の密度が下がってしまう
というのが骨粗鬆症で、
成長期の場合は反対に女性ホルモンの分泌が
増えることで骨の強度が高まります
スクリーンショット 2017-12-17 13.27.39.png
↑これは女子選手の骨密度の増加を示しています。
ちょうど女性ホルモンが増える時期と重なりますね。
 
なのでこの時期に女性ホルモンが増えて
体が「女性化」するのはとても大事なことで、
12~16歳で適切に女性ホルモンが出なかった場合
疲労骨折のリスクが高くなってしまいます。
 
 
 
色々と怖い(脅すような?)ことを書きましたが、
安心してください笑
ちゃんと対策することで予防できます。

対策:体脂肪率(体重)と栄養管理

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女性アスリートの三徴というものがあります。
有名ですが詳しく説明すると長いので簡単に言うと、
  • 骨粗鬆症
  • 無月経
  • 消費エネルギー>摂取エネルギーとなり、運動中のエネルギーが足りなくなる
これらが関連しあっている、という状態です。
(詳しく知りたい方はこちらから。)
 
 
栄養が不足すると、当然体脂肪は落ちます。
その状態が長く続くと女性ホルモンが少なくなり
無月経、骨粗鬆症の悪循環になってしまいます
 
 
そして基本的には、栄養管理をきちんとして
BMIを標準まで持っていくことが重要です。
 
 
①の不調でも述べましたが、
体重は減らしすぎてはいけないと言うのは
こうした理由もあるんです。
 
またこの時期はストレスや軽い摂食障害などで
栄養がうまく取れなかったりと
理想通りにはいきません。
僕の経験則ですが、神経質になりすぎるのも
よくないですし、完璧なコントロールは
無理だと思っていいでしょう
 
ただ、好き嫌いが多いとか野菜は食べないとか
それはダメです。
ダメ、絶対。です。
 
 
 
 
………………………………
 
 
 
  
ここまで、テニス界であまり語られることのない
体の不調にメスを入れてみました
(複雑だったでしょう!)。
 
 
今、日本テニス協会の育成現場では
「機能分析による指導」がメジャーで、これは
体の中で何が起きているか?を分析し
それを指導に活かす、という考え方になります
 
 
ひと昔前にあったような、
「調子が悪いなら打ち方を直そう」
「体の不調はメンタルが弱いから」
みたいな表面的なことではなくて、医科学的に
内部をみましょうということですね。
 
 
まさに今回のシリーズは、
日々みなさんが悩んでる「選手の不調」に対する
僕なりの機能分析です。
 
 
ですが、ここ数年の経験と勉強を通して
まだ伝えきれてないことがあります。
 
 
それは「体とメンタルの繋がり」です。
噛み砕いていうと「トラウマ」についてです。
イップスと言い換えてもいいかもしれません。
 
これも本当に問題で、
今までのネガティブな経験を思い出すと
※ケガやひどい敗戦など
体が反応してしまう、という
まさにトラウマ、イップスの症状です。
 
 
 
僕はメンタルの専門家ではないですし、
これもクラムジーと同様、
明確な答えはありません。
 
 
でも、トラウマやイップスを科学することが
今まで少なかったので、ここに言及し
僕の「不調と対策シリーズ」の
最終章にしたいと思います。
 
 
【最終章】
トラウマとイップスを医科学する
 
ちょうど今、原稿を書いているところなので
しばしお待ちくださいね!
 
 
けがや不調で苦しむ選手が
一人でも少なくなりますように…

2018.4.24 追記 最終章も追加しました。

※このシリーズの記事は、以下から全て見ることができます。
まだシリーズ過去の記事を読んでいない方は先に過去記事を見てください。
最終章も追加しました。
 
  1. 成長による不調と対策
  2. 共有したい知識①〜成長期をしる〜
  3. 共有したい知識②〜一人ひとりの成長を見極める〜
  4. 事例①成長が遅いケース
  5. 事例②成長が早いケース
  6. 事例③成長期を襲う不調『クラムジー』
  7. 事例④ジュニア女子の体の変化と不調
  8. 最終章:ストレス、プレッシャーと体の不調
 
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詳しくは以下のテニスフィジオHPよりご覧下さい。
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